ワイン造りは雨との闘い。日本のワイナリーの挑戦・勝沼③

日本のワイン造りには壮絶な歴史がありました。今回は恒例「5つの質問」で、ワイン造りと天気の関係をお聞きします。お話してくださるのは前回に続いて、丸藤葡萄酒工業株式会社・代表取締役の大村さんです。

大村春夫さん

① お仕事の中で天気はどの程度重要ですか? 10段階評価でお願いします。

ワイン造りはブドウづくりです。とにかくブドウづくりが90%だと思ってください。その中で天気は10段階で10じゃないですか。

ブドウが生育する過程で水分は必要ですが、ブドウが熟してくるに従い水分は大敵ですからね。「水分ストレス」という言葉がありますが、ブドウからなるべく水分を断つというストレスを与えることで、ブドウががんばって糖度をあげる活動をすることを表現しています。人間と同じでハングリーな環境に置かれると頑張りますよね!水が潤沢にあるとブドウが糖度をあげる努力をしないんです。とにかく、ブドウの実に当たったら病気になりますし、根から吸ったら玉割れが起こるんです。特に日本は土壌が豊かなのでブドウの粒と粒がぎっしり詰まっていまして、表面が綺麗だったとしても中で玉割れになっていることもあり、ちょっと怪しいなと思うものは収穫時、房の途中で切って確認するようにしています。

② 天気について、何を・一番・どのタイミングで、知りたいですか?

雨が降るタイミングですね。収穫時期は特に、かなりの精度の予報を知りたいです。うちの若いスタッフ、昔に比べたら、ずいぶんやりやすくなっていると思いますよ。パソコンで調べたら瞬時に天気がわかるんですから。あとは長期予報や、せめて1ヶ月分の天気がもう少しきちっと正確に出てくれればいんでしょうけれどね。

1日の中でも雨が降る時間帯を把握して、収穫の段取りなどを決めます。それがうまくいかないとスケジュールがタイトになって大変ですので。

③ 天気はいつどんなときにチェックしますか?

四六時中ずっとですね。剪定の時期は雨が降ると畑仕事ができませんし、収穫の時期は特に気を使いますので頻繁にチェックします。

④ 天気によって苦労していること・工夫していることは?

いろいろありますが、具体的にはビニールで雨よけをしていることや、暗渠排水(あんきょはいすい)です。暗渠排水というのは、水はけをよくする方法の一つで、畑の土中に溝を掘って排水管を通し砂利などの水はけのよい素材を投入します。台風のときなど、排水口から水が流れ出ている様子が見られます。

ビニールをかけないところはブドウの房ひとつひとつに傘紙をかけています。これは外国にはない手法です。雨が降らない地域はそんなことをする必要もないのでコストも安く済むんですけどね…。雨が降ると病気が広がったりその他もろもろブドウの栽培にとって良いことがほとんどないので、なるべく雨は降って欲しくないですね。もちろん、生育するには水分も必要なので1滴も降らないでほしいということではないんですが。

⑤ 今までで一番「天気に悩まされた」ことは?

一番最近では2016年ですね。プティヴェルドという品種のブドウを栽培しておりまして、2012年から3年連続でコンクールで金賞を受賞しました。ちなみに1000本以上瓶詰めしないとコンクールには出品できません。2012年のプティヴェルドワインが伊勢志摩サミットに使われました。ところが2016年は収穫時期に毎日雨で、ブドウが見ている前でどんどん腐っていってしまったんです。大損害でした。今年も台風が何度も来ましたが、幸い何とか持ちこたえてくれて無事に収穫できました。

余談ですが、甲州種は1000年の歴史がありまして、雨が多い日本で長い歴史の中を生き抜いてきた間に、自分で皮をどんどん厚くしてタネを守ったんです。

天気とブドウづくりは切っても切れない密接な関係です。地球上で、昼も夜も比較的涼しくなおかつ日照量があるところが適地になってきました。標高の高いところを選んだり、北の地域を選んだり、傾斜地を選び、水はけを良くしたり、石ころだらけの畑が良かったり、もともと雨があまり降らないなどの条件を揃えた痩せ地が、ブドウの栽培には向いていると言われます。

基本に忠実に造れば良いワインができますが、ブドウの出来が悪いといくら技術があっても良いワインはできません。世界のワイン産地はワイナリーのほとんどが「ブドウ畑を持っていてブドウを栽培しワインを造る」のが一般的。フランスのワイン名産地・ボルドーもそうです。土壌や栽培のコントロールは人為的にコントロールできますが天気だけは人間がコントロールできません。おいしい日本ワイン造りも同じです、つまりブドウづくりにとって「天気」は本当に重要ですね。


丸藤葡萄酒工業・大村さん、深いお話をありがとうございました!数年前に偶然出会った、丸藤葡萄酒工業さんの「甲州 シュール・リー」を飲んで、日本ワインに対するイメージががらりと変わったのですが、こんな苦労があったとは。災害や人的被害のことはもちろんのこと、日本ワインのさらなる発展のためにも、これ以上に激しい気象や環境にはならないでほしいですね。

取材協力:丸藤葡萄酒工業株式会社

▼ 前2回の記事はこちら
ワインをつくる人の心意気も含まれる。日本のワイナリーの挑戦・勝沼①
ブドウもワインも風土をうつす。日本のワイナリーの挑戦・勝沼②

(アール)

 

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