富士山もいつか形が変わる!? 動いている地形

台風19号で大きな災害が発生し、その後も20号、21号と緊張がとけない状態が続きましたが、そんな中、富士山初冠雪の一報が届きました。日本に住んでいると何かと富士山の話題が目に耳に入ります。電車から、高速道路を走っているときの車窓から…富士山が見えるとちょっと幸せな気持ちになれるのは、知名度はもちろんのこと、「日本一高い山」「世界遺産(これは2013年からですが)」、そしてその美しさにあるのではないでしょうか。
富士山は他の山とかなり様子が違っています。周りに他の山がなく、富士山のみできれいな円錐状であり、麓(ふもと)まで全部が見えること。
ところが、富士山は昔からずっとあの姿ではないらしいのです。さらに!この先も変化するかもしれない? …この謎を解き明かすべく、地形学の専門家・首都大学東京名誉教授の山崎晴雄先生にお話を伺いました。

山崎晴雄教授

―― 富士山は前はあんな形ではなかったということですが、その原因はなんでしょう?

富士山は過去に何度も噴火して、その都度形が変わっています。一番最近の大きな噴火は約300年前の「宝永噴火」(1707年)で「宝永火口」と言われる大きな噴火口ができました。富士山は沈黙しているように見えるかもしれませんが、歴史上頻繁に噴火を繰り返している活火山です。

宝永噴火は最近1万年くらいの間で最も大きな噴火でした。その前は、平安時代(1000年頃)だったので、宝永噴火は700年ぶりのこと。ちなみに休みが長いほど次の噴火の規模が大きくなります

―― どうしてその噴火の大きさがわかるのでしょう?

噴火の際に噴き出される火山灰が地面に積もった厚みで推測することができます。富士山の東側にある、御殿場では噴火で埋もれた江戸時代の畑も見つかっています。この場所の地質を調べると、富士山は平安時代以前には、何度も噴火を繰り返していたことがわかります。

―― ということは、その度に富士山は形が変わっていた、ということでしょうか?

はい、実はですね、富士山はかつて「ツインピークス」だった、ということがわかったんです。今のような円錐形の独立峰になったのはごく最近のことで、2900年くらい前まではいくつかの峰をもっていたと考えられます。

―― 富士山らしくない富士山だったんですね。なぜそのようなことがわかったのでしょうか?

さきほど、噴火による火山灰の話をしましたが、噴火によって流れ出た溶岩や崩れて流れてきた堆積物の様子を調べることで説明することができます。富士山全体に堆積している溶岩などがどのように分布しているか見ていくと、ツインピークスだった痕跡があるのです。

―― あんなにきれいな形ではない富士山なんて、想像できませんね。

富士山が美しい理由のひとつが、裾野を持った大きな独立峰であることと言えます。なぜこうなったか、というのは、富士山が存在している場所(位置)が大きく関係しています。
通常火山は、マグマが下から山地を押し上げているため、土台となる「基盤岩」の高度が高い場所にあります。ところが富士山はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界にできた窪地に、太平洋プレートが沈み込んでできたマグマが吹き出した、世界でも、いえ地球上でも大変珍しいプレートの交差点にあるのです。

周りに他の山がないことで、富士山は噴火した際にも自由に四方八方に噴出物を撒き、流し思う存分、裾野を広げることができました。今の富士山の形は、この場所でないとあり得なかったと言えるでしょう。


なるほど!奇跡と奇跡が重なって今の富士山ができているのですね。山崎先生、貴重なお話をありがとうございました。

“富士山があんな形をしている”ことに限らず、富士山を知ることで日本列島の地形を解き明かすこともできます。地震が発生した時によく聞く「プレート」という言葉。このプレートは、いま目に入ってくる景色をよく知る上でも、災害リスクを知る上でも、切っても切れない関係にあります。
富士山や地形に関してもっと詳しく知りたい方は、山崎先生の著書『富士山はどうしてそこにあるのか』(NHK出版新書)、『日本列島100万年史』(講談社 BLUE BACKS)がオススメです!

取材協力:山崎晴雄氏

(アール)

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