9月の防災特集で、話題になった「江戸川区 水害ハザードマップ」のお話を伺いましたが、「ハザードマップ」はそもそも、なんのために、どのようにして作られているのでしょうか? 英和辞典で「Hazard」を調べると 危険、冒険 偶然、運;運任せ などの和訳があります。危険や被害を予測し、被害の範囲を地図にしたもの…「ハザードマップ」は自分が住んでいる地域のリスクを理解し、有事の際に自分の命を守る行動が取れるための指南書と言える、まさに「命の地図」でもあるのです。
今回はハザードマップポータルサイトを運営されている国土交通省国土地理院さん(以下、国土地理院と表記します)を訪問し、地図のことやハザードマップについてお話を伺いました。
国土地理院について
国土地理院の仕事は、大きく分けると「測る」「描く」「守る」「伝える」の4つの柱があります。
測る…日本の位置を定める
国土地理院では、大地の動きを世界の国々と協力し、VLBI※という技術を使って絶えず測り続けています。VLBIは、宇宙からの電波を世界の観測局と同時に観測することで、日本列島が地球上のどこに位置するのかを正確に知ることができます。
このVLBI技術で得られた位置を基準にして、全国約1,300点に設置した「電子基準点」で、GPSや準天頂衛星(みちびき)等の測位衛星からの電波を常時受信し、そのデータをモニタリングしていくことで、日本の中で各地点がどこに位置するのかがわかります。その変化を調べることで、日本の地殻変動を捉えることもできます。
電子基準点のほか、三角点や水準点は、河川・道路などの各種測量の位置の基準として利用されます。
※ V L B I:(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉法)
電子基準点 <画像:国土地理院>
描く…国土の地図を作る
私たちが普段使っている、目にしている地図は国土地理院の地図がベースになっているものがとても多いです。国土地理院が作成する地図は、すべての地図の基礎であり、国土の管理や防災対策などを推進していく上でとても重要な役割を担っています。
地図を描いていく作業はとても細やかです。まずは飛行機の機体に取り付けた測量用カメラで写真を撮影し、ここから道路や建物を描いて地図にしていきます。この時写真は1枚ではなく2枚重ねて撮影します。これは「同じものを2つの視点からみると立体的に見える」から。私たち人間の目も同じですよね。左右の目の間隔は10センチメートル程度ですが、撮影用のカメラはそれが数百メートルから数キロメートル単位。例えるなら超巨大な人間が眼下を見下ろしている感じです。こうすることによって地上を立体的にとらえることができ、道路、建物、等高線等を正確に描くことができます。
国土地理院が作成している地図には、「基本図」(日本の基本となる地図)と、「主題図」と呼ばれる特定のテーマ(主題)について詳しく描いた地図があり、大地震が起きた際に液状化が生じやすいとされる「旧河道」や「旧水部」、洪水の際に浸水しやすいとされる「谷底平野・氾濫平野」などの地形分類を示した主題図は災害リスクの把握や防災対策、調査・研究・教育のための基礎資料などに利用されます。
写真の撮影や調査などをして、その土地がどのようにできたかわかる地図を作っています。「旧河道」は、むかし川が流れていた場所。地盤が軟弱で地震の際は揺れやすい・液状化しやすいということがわかります。「氾濫平野」というのはその名の通り、河川が氾濫してできた平野…ということは洪水によってできた土地ということです。今はもちろん、ダムや堤防などの対策がされており、災害の頻度は昔ほど多くはありません。ただ、ダムや堤防で守り切れない量の雨が降る可能性は「絶対にゼロ」とは言えません。だからこそ、自分が住んでいる場所のリスクを知る必要があると思います。
<画像:国土地理院>
守る…日本の国土を守る
国土地理院では、最新の技術を活用して防災情報を収集し、提供しています。災害発生時には地図作成のノウハウを生かし、国土地理院の測量用航空機「くにかぜⅢ」を飛ばして被災地の状況を把握しています。 最近の災害対応のトピックスとして、いち早く被災状況を把握することを目的とし「平成30年7月豪雨」直後に、被災地域の浸水範囲と水深を示した「浸水推定段彩図」を公開。これはSNSなどで集めた断片的な情報から水際の位置を推定し、標高データと組み合わせることで浸水の範囲と深さを表現したものです。北海道胆振東部地震の際には、発災当日に航空写真を撮影し、災害状況の把握にも役立てています。
伝える…災害の備えとなる防災地理情報等を伝える
国土地理院では、今年度から災害教訓の伝承に関する地図・測量分野からの貢献として、過去の自然災害に関する石碑やモニュメントを地図記号「自然災害伝承碑」として地形図等に掲載しています。この自然災害伝承碑等の「災害履歴情報」や明治期の低湿地等の「地形特性情報」を「防災地理情報」としてウェブ地図「地理院地図」で提供し、地域での防災力の向上や防災教育の充実を支援していきます。
地図は生活になくてはならないもの。地形を図にしたのが地図ということ、その大元を作っているのが国土地理院、ということがよくわかりました。次回は今年2019年7月から提供がスタートした「地理院地図Vector」という最新技術について伺います!
取材協力:国土交通省 国土地理院
(アール)