厚生労働省発表の「過去10年間の有毒植物による食中毒発生状況(平成21年~30年)」のデータを見ると、事件数に対して患者数が圧倒的に多いことがわかります。
参考:厚生労働省HP
これは一体、どういうことなのでしょうか? ジャガイモによる中毒について『人もペットも気をつけたい 園芸有毒植物図鑑』の著者、東京農業大学教授・農学博士の土橋豊(つちはし ゆたか)さんにお話を伺いました。
土橋豊教授
『人もペットも気をつけたい 園芸有毒植物図鑑』
—— ジャガイモで中毒、と聞くと「芽の部分を取り除かなかったのでは?」と思ってしまいがちですが、ジャガイモでこんなに中毒者がいるとは驚きです。いったいなぜ、こんなにたくさんの人がジャガイモで中毒を起こしているのでしょうか?
ジャガイモによる食中毒は1件当たりの患者数が多く、これは学校などで起きる集団食中毒が多いことで、このような数字になっています。ジャガイモを教育の一環として育て、みんなで掘ったジャガイモをみんなで食べて集団で中毒になってしまった、という例ですね。4月に種芋を植え付けると、収穫時期がちょうど7月頃で、この時期によく起こっています。
—— でも、ジャガイモですよね? 「新芽は危ないから取り除きましょう」というのは、学校でも自分も学びましたし、先生ならなおさらよくご存知だと思うのですが。
ジャガイモの毒が芽にあるのは間違いではありませんが、実はこの例は「緑色になったジャガイモ」を食べたことによる中毒です。ジャガイモは芽の周辺部や光が当たって緑色になった表皮周辺に有毒成分であるポテトグリコアルカロイドと総称される成分が含まれます。
ジャガイモを育てる際には、土寄せをしてジャガイモに光を当てないようにするのですが、この栽培技術の知識が不足していたのでしょう。
—— そういえば、私もジャガイモを育てていますが、土寄せは単にジャガイモが緑色にならないように…つまり、色(見た目)が問題という認識しかありませんでした。
育てる時の土寄せも肝心なのですが、収穫後の保管の仕方にも注意が必要です。冷暗所に保管し、光が当たらない状態にしないといけません。最近ではスーパーの売り場でも太陽光が当たる場所にジャガイモを置いてあるのを見かけますので、購入時にも注意が必要です。
また、成長しきっていない小さなジャガイモや花が咲いてついた実(結実)などもこの毒の含有量が多いことが知られていますので、注意が必要ですね。
—— ジャガイモには気をつけるべきことがたくさんあるんですね。
ポテトグリコアルカロイドは、成人の場合0.2〜0.4gの摂取で中毒になるとの報告があります。食べる量にもよりますが、特に小さなお子さんの場合は体重に対する摂取量の割合が高くなりますので、中毒症状に陥りやすい、症状が重くなる可能性もあります。
とても身近なジャガイモでこんなに中毒患者数が多かったなんて!日光に当たっているジャガイモだって、近所でいくらでも見てきましたし、ジャガイモを買った後で保管条件や場所を意識したことなんてありませんでした。
ただ、植物は人間をどうにかしようとして毒を作っているのではなく、それが植物にとって当たり前で必要なこと、でしかありません。
観賞用の園芸植物と、食べられる植物はしっかり分けて栽培する、適切な栽培方法を実践する、適切な保存を徹底するなど、ちょっと気をつけさえすればいいことだらけです。
土橋教授は「正しい知識をもち、人と植物の適切な関係づくり」を何度もおっしゃいました。知っていれば危機に遭わずに済むこと、なんですね。
土橋教授、どうもありがとうございました。
取材協力:東京農業大学
(アール)