特集【東日本大震災】進化する非常食~「どこでもスイーツ缶」感動の誕生秘話

65年間蓄積された確かな技術で開発された「どこでもスイーツ缶」。風味といい、食感といい、これが本当に非常食?とびっくりするほど、ユニークなもの。開発にかけた年月や苦労などは「特集【東日本大震災】進化する非常食~缶を開けたら本格ケーキ「どこでもスイーツ缶」」でお伝えしましたが、今回は「どこでもスイーツ缶」が誕生した経緯などについて伺いたいと思います。お話をしてくださるのはトーヨーフーズ株式会社・瀬川義雄さんです。

トーヨーフーズ株式会社 瀬川さん

―― ところで、なぜこのような商品を開発しようと思われたのでしょうか?

トーヨーフーズ株式会社は、トーアス株式会社の自社ブランド製品を作る会社として誕生しました。トーアス株式会社は製造会社ですが、いわゆるOEM(相手先ブランド製造)をメインとしてきました。

この業態で実績を積んでいく中で、このノウハウを活かし社会貢献できる形で自社ブランドを立ち上げたいと思ったのが最初でした。非常食を作るために会社を立ち上げた、というよりも「社会的貢献ができるものは何だろう?」と模索していくうちに、非常食を開発するきっかけとなったんです。

―― そうだったんですね。ではなぜスイーツだったのでしょうか。

東日本大震災のときのことを色々と調べているうち、被災者の方のこんな言葉を知りました・・・「食べるものはあったけれど、甘いものが無かった。でも、非常時にスイーツを食べたいとは言えなかった」。

▲東日本大震災:津波によって陸に打ち上げられた大型船

生きていくために食べる食料はもちろん必須ですが、そこにスイーツがあれば、心の栄養にもなるのでは?と考えたんです。そして、うちの技術力をもってすれば本格的なスイーツを作れるのではないかと。開発に着手しました。

弊社では流動食なども製造しているのですが、命を守るために必要とされているものを作っている会社として、社会貢献につながる製品を作ろうと。もともと、そこ(社会貢献)からスタートしたプロジェクトでしたので、そういった声がとても参考になりました。こういった流れで防災食・災害食・備蓄食を自社ブランドとして作ろう、という流れになったんです。

―― 技術で社会的貢献、ですか。

はい、実は私自身、ずっと以前にボランティアで世界を回った事がありまして、アフリカで「食糧支援」として配給された乾パンを現地の方が食べているところを見たんです。缶詰は調理も要らず、特別な器具なども必要なく、空けたらすぐそのまま食べられる。日本の缶詰ってすごいなあ、これが非常食なんだ、という感動をずっと持っていたようにも思います。

こうした経験が、もしかしたら今この会社にいることに繋がっているかもしれません。保存性の高いものが社会貢献になり、生命を支える事にもつながる・・・これが、大きな柱となっています。

できても「美味しい」と感じられなければ完成ではありません。風味や食感を意識して、原材料もかなり吟味して作りました。

▲チーズの豊かな風味、しっとりとした食感で口当たりはとてもなめらか。本格的なスイーツをいただいているようで、このままティータイムになりそう。(写真提供:トーヨーフーズ株式会社)

―― 「美味しい」と感じるのは個人差もありますよね?

はい。65年の缶詰製造で蓄積された膨大なデータと、開発担当者や営業、品質管理者を含め多人数で味覚の確認・風味の調整をしたり、入念なチェックは欠かせませんでした。

チーズは50カ国から取り寄せたんですよ。「チーズケーキ」にはオーストラリア産のクリームチーズを、「ガトーショコラ」にはクーベルチュールチョコレートを使用した本格的な味わいになっています。チーズもチョコレートも、それ単体で食べるととても美味しくても、缶詰スイーツにしたときにどうか、というのは、作ってみないとわからないですからね。

―― それにしても開発にいたるまでのご苦労は並々ならぬものだったのでは?

もちろん、開発には時間も要しましたが、社会貢献のためにわざわざ立ち上げた会社ですから、こういうものをきちんと作りたい!という思いもありましたので2年も3年もかけて必ず完成させなくては、と思ったんです。思いと、そして弊社の技術があればこそ!ですね。

こちらの「玄米ごはん」も、東日本大震災のときに伺った話からできました。缶入りの白米のご飯は、湯煎にかけないと硬くて食べられないんです。あの状況でお箸を突きさして削って食べるような状態だったと。食べられなくて廃棄されたものも多かったと聞きました。玄米ですと、ぬかがバリアになってカチコチになりにくいんです。これも同じように缶の中で炊き上げていますので「条件出し」をうまくやれば、3年間はそのまま食べられるようになるんです。


瀬川さん、ありがとうございました。「自社の技術で社会貢献を」からスタートしたプロジェクト、感動しました。瀬川さんの貴重なご経験も伺うことができ、さらに感動もひとしおでした。「災害が無い」のが一番ではありますが、日頃の備えは大切です。是非ご家族で「防災」や「非常食」についても、話してみてください。

取材協力:トーヨーフーズ株式会社

 

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