特集【東日本大震災】まずは命を守る!防災対策を日常に。

3.11東日本大震災から9年。私たちの暮らしに「防災」はどの程度、根付いているのでしょうか。備品や備蓄に関して言えば、いまだに新型コロナウイルスの影響で「品薄」「買い占め」騒動が起き、生活必需品が手に入らず困っている人が大勢います。デマや風評被害に惑わされてしまう人が後を絶たない現実もあります。

私たちに必要な「防災」とはどのようなことでしょうか。2020年の「3.11特集」では、公益財団法人 市民防災研究所 理事・池上三喜子(いけがみ みきこ)さんにお話を伺います。

池上三喜子さん(写真提供:公益財団法人 市民防災研究所)

■一人ひとりが命と暮らしを守るための活動を!

市民防災研究所では、火災、地震、水害等の災害から市民一人ひとりが命と暮らしを守るため、「防災普及活動」「調査研究」「防災用品・防災図書の頒布」などの事業を展開しています。
具体的には防災講習会や講演会、セミナーなどへの講師派遣、防災リーダーや自主防災組織育成のお手伝い、避難所の運営ワークショップの開催、ほかにも訓練のお手伝いや災害対応に役立つ資料の作成支援など、防災や減災に関わる多くの事案の企画・運営などをしています。

■日常生活に防災対策を

2020年2月に開催された「防災に関する都民シンポジウム 家族と地域を守る 〜『今』できる備えを考えよう〜」でも配布された「東京くらし防災」の監修をさせていただきました。この冊子にも書いてありますけど「わたしの『いつも』が、いのちを救う。」日常生活の中に防災対策を自然に取り入れたら良いのですよね。できることは身のまわりに、たくさんあります。

大切なのは「命を守る、ケガをしない、火事を出さない」の3つ。
もちろん、災害によって気をつけることは違いますが、例えば地震の際に「命を守る、ケガをしない」というと、何が大事だと思いますか?

家具の転倒・落下・移動防止です。3.11東日本大震災は平日の午後に発生したので職場で被災し、可動式の椅子やコピー機などで怪我をした人がいたのです。家具類は転倒防止だけではなく、落下や移動防止対策も必要不可欠ですね。

そしてガラスの飛散防止対策。ガラスと言っても窓ガラスだけではありません。室内を見まわしていただくと、例えば「額」がありますよね、これが意外と盲点で、皆さんあまりご存知ないの。
最近の額縁は面材がアクリル製のものが多いのですが、昔のタイプの額縁は面材がガラス製のものが多く、落ちると割れて飛散するので危ないんです。
でも、だからといって気に入った絵や写真を全部外して飾らない!というのは、味も素っ気もない暮らし方でしょう? それは個人的にも嫌だな、って。(笑い)
だから「安全で、楽しめる」ことが大事。例えば高いところに飾ると落っこちてきて危ない、ケガの可能性もある、というものはなるべく低い場所に配置するなど、ちょっとした工夫をすることです。うちは、トイレ室内の低い位置に外国のお土産や花瓶などを並べています。

■想像して、工夫する

あるとき気がついたの、うちにはこんなに私の好きなものがたくさんあるのに「防災対策」といって全部しまい込んでしまったらなんの楽しみもない。それでちょっと考えて、ティーカップを並べる棚を買ってきてトイレ室内に設置し、お土産を並べてみたんです。こうすると毎日眺められて楽しいですよ。
少し大きめの花瓶でも、例えば地震で転んだとしてもトイレ室内でゴロゴロするだけ、上から落ちてきてケガの原因になる可能性はかなり少ないですよね。こんな感じで、身のまわりをよく見て想像するんですよ。地震で揺れてこうなったら危ないなとか、これはグラグラするけれど落ちてくる心配はなさそうだな、というふうに。落ちて割れたら危ないものは、それだけではなくて後片付けも大変でしょう?

家具類の転倒は突っ張り棒で対策をしている方が多いですが、それだけだと防げない場合もあるんです。東日本大震災のとき、弟の留守宅を頼まれて点検に行ったのですが、食器棚の上の突っ張り棒がゆるんで斜めになってしまっていました。余震などの強い揺れがもう一度くると外れてしまうな、と思いました。
家具の固定は突っ張り棒だけでは弱いんです。見た目は少し悪くなりますが、天井や家具との接地部分を両面強力接着剤などで固定しておくと、揺れてゆるんでもその接着面が頑張ってくれるんです。それから、家具の下にシリコンやゴム素材でできたズレ防止用マットなどを挟んでおくのもオススメです。転倒防止は2つ以上の器具を組み合わせることで強度がアップします。

その家によって、状況は個々に違うと思いますので、まずはよく観察してそれから冷静に考えてみる、想像してみることがとても大事ですね。我が家の安全地帯はどこだろう? もし流しに立っているときに地震がきたら? 玄関にいるとき、リビングにいるとき…例えばダイニングテーブルがあれば、地震発生時にはその下にサッともぐれば飛んでくるもので頭をケガすることはないだろう、というふうに。

なにはともあれ、まずはご自身の身(命)を守ること。ですね。うちはマンションで、強い地震が起きると扉が開かなくなる可能性もあります。そうなると避難経路はベランダです。ということは、ベランダから避難する方法を知っておかなければなりません。
ベランダの隣との境にあるボードを蹴破って移動し、端にある避難用ハシゴを使って避難するとか、最悪の場合は、身体をロープで縛って手すりに繋いで1階ずつ降りる、など、頭の中で何度もリアルにシミュレーションしてみます。…ロープで降りていくのができるのは、我が家では私くらいしかいないんですけど(笑い)


5階からロープで!それはすごいです。確かに私自身も思い当たりますが、モノを揃えて安心している人は多いかもしれません。「防災対策」と聞くと「防災グッズ」や「水と食料の備蓄」にしか想像が及ばない、という人もいらっしゃるでしょう。でもまずは「命を守る」「ケガをしない」ための暮らしをどうするか。「防災」「対策」というとちょっとハードルが高く感じてしまうかもしれませんが、まずは自分の身のまわりをよく観察すること、どんな状態かわかると、なにをすればよいか身近な視点から見えてきそうです。池上さん、ありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

取材協力:公益財団法人 市民防災研究所

(防災士:アール)

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