特集【東日本大震災】津波のメカニズムと特徴

昨年(2021年)後半から日本列島各地で地震が頻発、海で発生したものも多くありました。また、南太平洋のトンガで起きた火山の噴火によって発生した津波が日本の各地でも観測されました。
30年以内に必ずやってくると言われる巨大地震の存在が大きくなった人もいらっしゃるかもしれません。地震そのものも怖い事象ですが、東日本大震災の時に経験したあの「津波」の恐ろしさは、今でも忘れることができません。
2022年の【311特集】では「津波」をピックアップしたいと思います。私たち一人ひとりが防災や減災をどのように考えたら良いか、今一度考えるキッカケにしていただけると幸いです。お話を伺ったのは高知工科大学 システム工学群 佐藤愼司(さとう しんじ)教授です。

写真提供:高知工科大学

佐藤愼司教授
高知工科大学 システム工学群 教授、工学博士。横浜国立大学工学部助教授、建設省土木研究所河川部海岸研究室室長、東京大学大学院工学系研究科教授などを経て現職。専門は海岸工学、沿岸環境学、水工学。土木学会、日本海洋政策学会に所属。津波とその対策、高潮とその対策、漂砂、海浜変形、海岸侵食対策などを研究。『海岸波動 [波・構造物・地盤の相互作用の解析法』(共著・土木学会編)、『レジリエンスと地域創生』(共著・明石書店)、『東日本大震災の科学』(共著・東京大学出版会)など著書・受賞歴多数。

―― 津波とはどのようなものなのか、発生のメカニズムや特徴について教えてください

津波は大抵の場合、地震の後に発生しますので、海底で大きな地震があると津波が発生するという理解でほとんど正解ですが、必ずしもそれだけではありません。よく知られている例で言うと、海の近くにある山が崩れて海の中に突入するとか、海底火山の爆発などがあります。昨年、沖縄の海岸などで軽石の漂着が問題になっていましたが、あれも海底火山の噴火が原因です。噴火の規模が大きいときに起こる波も津波ですし、他にも有名なのは、小惑星や隕石が地球にぶつかることでも津波が起こります。恐竜が絶滅した6500万年前の隕石衝突はメキシコ湾で起こりました。隕石の衝突は他にもさまざまなイベントを起こしましたが、そのうちの一つが津波を発生させたことではないかと言われています。
つまりこのように、何らかの原因で海面が揺すぶられ、盛り上がったり、あるいは下がったりといったことが広範囲にわたって起きると津波が発生する、ということになります。

とはいえ、津波のほとんどは地震によって発生しますので、そのメカニズムについてお話しします。地震は地中の深いところで断層が起こり、地面が動いて揺れるという現象です。それが海底で起きると海底面が30秒くらいかけて動きます。このとき、空気であれば圧縮されますが、水は圧縮できないので、水も海底面と一緒に動くことになります。例えば海底が盛り上がったところは水面も盛り上がり、下がったところは水面も下がる、これが地震の断層の規模なので数十キロにわたって起きてしまうわけです。
そして揺れがおさまると水面だけが残ってしまいます。つまり通常では起きないような状態=水面が上がったり下がったりする状態が、揺れがおさまった後に残っているということになります。分かりやすい表現でいうと、これが津波のタマゴということになります。この、水面の上がり下がりの状態は通常ではあり得ないので、とても不安定です。高いところにある水は低いところに行こうして水が動き出すことになるわけです。つまりこれが津波の動きです。

▲海溝型地震で津波が発生するメカニズム。 大陸プレートの下に潜り込む海洋プレートがひずみを蓄積し、地震によりそれが解放される際に、海水面が変形します。これが初期水位となって四方に津波が伝播します。(図提供:佐藤愼司教授)

私たちが普段見ている波は風によって起こります。海の上を強い風が吹くことでさざなみが立ち、だんだん大きくなってきて「波」として我々が見るというふうに、海面が風で擦(こす)られることによってできるのが普通の波ですが、津波はこれと同じ理屈ではなく、先ほど説明したように、海底面の盛り上がりで強制的に津波の卵のような水面ができてそれが伝わっていく…これが津波の正体ということになります。

波と津波ではなにが違うかというと、大きさが違うんですね。普通の波はせいぜい100メートルくらいで盛り上がり、次の波が来るまでは100メートルくらいのオーダーですが、地震の震源の広さは数十キロなので、それと比較するとものすごく大きいわけです。
つまり、津波の場合は波が非常に大きいのですが、表現としては「高い」や「広い」ではなく「長い」というのがふさわしい表現です。この「長い」波はスピードが速いこと、海岸の近く(浅いところ)に来ると急に大きくなることが特徴として挙げられます。普通の波でも海岸近くに来ると大きくなって砕けますが、津波は長いので場合によっては10倍くらい大きくなります。このような性質があるので、我々のように海岸近くにいる者にとっては、高くて大きな波がすごいスピードで来てしまう…「非常に危険な波」ということになります。

また、津波の端から端まで数十キロの長さがありますので、一度到達したからといってすぐに終わることなく、まだまだずっと続くわけです。普通の波は長くても10秒くらいすると押しては引いて、となりますが、津波は場合によっては数十分から1時間くらいで押し続けてその後引いてということになります。
この様子は「波」というよりは、別のものに見えるのではないかと思います。波は“チャプチャプ”と表現されるような行き来が一般的ですが、津波の来ている現場は「流れがドォーッと数十分にわたって続く」状態で、30分くらいの時間をかけて押して来続けた後に、今度は引いていく流れがドォーッと続くというような感じです。確かに津波も波ではあるけれど、我々の感覚の中にあるチャプチャプした波ではなく、「流れが行ったり来たりしている」ように見えると思います。

―― 被災地では山の方にも津波の被害が及んでいましたが、陸の地形が関係あるでしょうか?

そうですね、場所によってさまざまな理屈がありますが「リアス式海岸」が一番顕著でわかりやすいかもしれません。リアス式海岸は上から(俯瞰で)見ると湾の形がV字型になっています。Vの字の開いている方に海、街があるのは奥の方でVの先端部分になっています。津波は先端部分で普通以上に大きくなることがありますし(下図・上)、さらにそのあたりの陸地は山に向かってすり鉢状になるようなV字型をしていて、ここに入ってくる津波がどんどん集まってエネルギーが集中することになりますので(下図・下)、このような地形ですとかなり高いところまで津波が這い上がってしまいます。

▲水深が浅くなると津波が高くなる(上図)。V字形の湾では、湾奥で津波が高くなる(下図)。(図提供:佐藤愼司教授)

―― 「○○年に一度」などとよく耳にしますし、東日本大震災のときは1000年に一度などと言われていましたけれど、このサイクルは地球の地殻運動と関連があるのでしょうか

それに関しては、私の専門とは少し離れて地球科学の分野ですが、地球の表面は幾つものプレートと言われる岩盤でできており、それが動いているということもわかっています。岩盤が動いていることによって地震が起きるのですが、その動きを止めることはできません。

日本は動いている岩盤がぶつかっているところに位置していまして、太平洋側では東北から四国のあたりまで岩盤が動いている地域にあたります。この動きによって1年に大体7〜8cm動いており、それくらいの動きなら耐えられますが、その100倍になると耐えられなくなって滑ってしまうのです。それが地震であり、目安として大きなものは海底でおよそ100年を周期にやってきます。

西日本の太平洋側で、この「100年に1回くらい」周期的にやってくるのが南海トラフ地震で、東北津波も100年に1回くらい発生していることになります。これが毎回、同じ規模で発生すると対策もやりやすいのですが、10回に1回くらいプレートが頑張ってしまいまして…頑張ると人間もストレスが溜まりますよね。そうすると次の滑りが大きくなってしまい、津波も大きくなってしまうのです。
2011年の東北津波はそういう、頑張ってストレスが溜まった末の大きな津波だったのでは、と言われています。これが1000年に一度の規模などとされる所以です。


溜まりに溜まって爆発するのではなく、小出しに少しずつになってくれたら良いのに…と思わずにはいられません。普段とても身近にあり、私たち生物にとってなくてはならない「水」の特性が、非常に特異だということも改めて感じました。次回はこの津波に対する現在の技術や考え方についてお聞きしたいと思います。佐藤教授、ありがとうございました。

取材協力:高知工科大学

(防災士:R)

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