【防災特集2021 ②】地球と宇宙が交わる「渚」で

私たちの耳には聞こえないけれど、地球と、地球を取り巻く環境には実にさまざまな音が鳴り響いているというお話を伺いました。インフラサウンドがもっと活用されたら、津波から身を守る情報を得やすくなるかもしれません。聞こえないだけに理解も少し難しそう?ですが、今この瞬間も、インフラサウンドがすぐそこに届いているかもしれません。
前回(防災特集①のリンク挿入)に続いて「地球の音」インフラサウンド研究の第一人者・高知工科大学 山本真行(やまもと まさゆき)教授にお話を伺います。

写真:高知工科大学

山本真行教授(写真提供:高知工科大学)
大阪府堺市出身。東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻博士後期課程卒、博士(理学)。2003年、高知工科大学に着任、2013年8月より現職(システム工学群・教授)。国立極地研究所 客員教授を併任。学生教育の傍ら、「宇宙花火」ロケット実験、民間ロケット実験(MOMOシリーズ)、「はやぶさ」「はやぶさ2」帰還観測など、JAXA、NASAや国内外の大学。民間企業等と共同し、地球物理学分野での基礎研究や機器開発、それらを用いた防災応用に取り組む他、高大連携理科教育への支援や小中高生・市民への科学的知見の普及活動にも携わる。小惑星MASAYUKIYAMAMOTO(58184)は、高知県の著名天文家・関勉先生による命名。

―― 山本先生の専門の「地球物理学」は、どのような学問でしょう

地球物理学というのはその名の通り「地球の物理」です。大気の層を超えて地球が成り立っている宇宙空間(=太陽系宇宙)あたりまでが、地球物理学としての研究の範囲と考えていただいて良いかと思います。この範囲を超えてもっと遠い宇宙に関しては天文学、あるいは宇宙物理学とされます。
ざっくり分けるとすれば、地球という固体として存在している惑星を専門とする地質学・地震学、地球そのものではないけれど地球を取り巻いている大気の層(=空気)を専門とする気象学、もっと宇宙に近い部分の3つの分野があるといえるでしょうか。地球物理学と宇宙物理学の境界は「探査機が飛んで行ける範囲」ですね。地球物理学と一言で言っても私の分野から見ればそうだけれど、別の方に聞くと全然違う答えが返ってくるかもしれません。

―― この中で「インフラサウンド」はどの部分に大きく関係しているのでしょうか

サウンド=音は基本的には空気や水などを伝わって届きますので、なにかしら媒質があるところ、つまり大気の部分になります。ところが、例えば地震が起きるとそれによって地面が揺らされる、ということは押されたり引かれたりの振動があって大気中にも音が出ます。そうすると固体としての地球・地震学の部分と、空気・気象学の部分は学問的には繋がっているといえます。

さらに、宇宙に近い部分ではオーロラや流星が光っているところ、上空100kmくらいの高さにも薄いけれど大気があり、そこに観測ロケットを飛ばしてあるいはレーダーや光学的な遠隔計測機器を使って地上から観測・観察することが今の技術では可能です。この辺りにも地上から大気を伝わって宇宙(希薄な超高層大気)に影響を与える、あるいは宇宙からの影響が地上付近まで届くこともあります。ここでいう影響を与える自然の仕組みの1つが、まさに私が今研究をしているインフラサウンド(重低音成分の音)で、専門用語で大気上下結合というのですが、上と下をつなぐような役割を果たしているという意味で「音」は面白いなと思っています。実は私が音の研究を始めたのは15年くらい前からで、それ以前はもっと宇宙空間に近い分野の研究をしていました。

―― 宇宙空間に近い場所だと空気が薄い、ということは伝わり方も鈍くなるのでしょうか

音は圧力で伝わるので、その媒質となるものが薄い(少ない)ということは、圧力が伝えられなくなるという意味ではどんどん音が聞こえなくなっていきます。宇宙空間は真空なので最終的には音が伝わる要素がない、ですね。

宇宙空間に近い場所を、以前とあるテレビ番組の中で「宇宙の渚」と表現されたことがありました。宇宙を海、地球を砂浜に例えて宇宙に近いギリギリ大気のある場所を渚と表現したのですね。これは言い得て妙だなと感じて私も時々この言葉を使わせてもらっています。「宇宙の渚」では色々な現象が起きていて、そのひとつがオーロラです。

―― オーロラは光っているから私たちも認識できますが、音は聞こえなかったらあるのかないのか、まるでわからないですよね

光にも赤外線や紫外線のように見えないものがあり、実は人の眼には見えないオーロラも特殊な装置で観測されています。赤外線はリモコンのような身近なところで工業技術としても活用されていますね。
光も電磁波の一種ですが、電磁波は広範囲にわたり電波からガンマ線まで6種類くらいのカテゴリに分類されます。この電磁波全体の中で私たちが見られるのが可視光線の範囲、ということですね。先にお話しましたが、音も同じように「聞こえる範囲」がありそれを外れていると聞こえませんが、その音を連想しながら考えていくといった感じです。

前回「波長の長い波について、ゆっくりだけれどものすごく大きなエネルギーの波が一つ“ドンブラコ”とやってくる」と表現しましたが、津波の場合は、10分〜15分もかけて波が1つ来るイメージです(1周期)。私たちがある場所でその津波からのインフラサウンドを観測しようとすると、その場に10分間ずっと居続けて聞こうとして、その「10分間」が終わって初めて「いま波がひとつきた」と観測できるのです。


物理ってすごく身近にある現象のことがわかる学問ですね。山本先生が所属されている高知工科大学は太平洋に面した高知県が所在地。南海トラフなども近く、大きな地震や津波も気になる位置です。現在、高知県内にはインフラサウンドの観測器が津波用のものが15台、土砂災害用にも10台くらい設置してあるそうです。次回は研究と防災の未来について伺います。

取材協力:高知工科大学

(防災士・防災コーディネーター:R)

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