【気になる技術】通じることは安心に繋がる。どこにいても「安心」を構築するために必要なものとは

普段何気なく使っているテレビやスマートフォンですが、これらは「無線」によって情報が送られています。世の中にはこの「無線」と呼ばれるものが何種類もあり、それぞれ目的や用途に合った特徴があり、規定や基準が細かく定められています。昨年は「5G」に日本もわき立ちましたが、これも無線の一種です。本コラムでは「LPWA」という無線をテーマに、独自のシステムを構築された株式会社フォレストシー 代表取締役・時田氏にお話を伺います。

株式会社フォレストシー 代表取締役 時田義明氏(写真提供:株式会社フォレストシー)

―― LPWAでも実用化に耐えうるものとそうでないものはどのような違いがあるのでしょうか

同じLPWAでも、20mWは特定小電力無線局と呼ばれ、免許や登録など何も必要のない手軽な出力の無線ですが、250mWになると陸上移動局となるため登録免許が必要です。登録免許は総務省に所定の申請書を提出し、年間400円の電波使用料を支払えば誰でも使える無線です。
私たちが取り組んでいる「里山通信」は、独自の無線規格「GEO-WAVE(ジオウェイブ)」を用いて、これまで通信が困難だった里山・中山間地域をはじめ、日本中のあらゆる場所を「IoT通信圏内」にする通信機器とサービスを企画開発から手がける事業ブランドです。

―― 「里山通信」のしくみについてもっと詳しく教えてください。

「里山通信」のインフラの要となるGEO-WAVEという無線規格の特徴は、ワンホップ(中継機を経由することなく直接届く)で遠くまで飛ぶことです。従来の製品は同じ250mWでも通信距離が数キロ程度しかなく実用性がありませんでしたが、我々の製品は見通しが良ければ200〜250kmにもなります。

また、中継機を経由することでさらに遠くの山の向こう側や谷間にも飛ばせることも大きな特徴としてあげられます。LPWA無線は一方通行でセンサー群(子機)からの送信で終わってしまうものが多いのですが、GEO-WAVEは双方向通信に対応しています。子機から中継機、中継機から親機とデータが送信され、親機が受け取ったという情報が子機に向けて逆の流れで送られます。クラウドにデータを送る出入り口である親機が確実に子機からのデータを受け取ったということ(既読通知のようなもの)を子機側が受けてから送信を止める仕組みになっています。このように情報の到達確認ができることに対しても、信頼性が高いとかなり評価していただいております。他社と比べても高いレベルでクラウドまで作り込んでいることも好評価で、北海道から九州の離島まで国内80地域以上で採用いただいています。

画像提供:株式会社フォレストシー

獣害対策は人が暮らしている里山だけでは不十分で、増えすぎたイノシシやシカなどのバランスを元に戻すには、山の谷間(たにあい)など携帯電話が繋がらない奥地での捕獲が必要です。そこで、できる限り安価で手軽に使える機器を世に出し、トータルで提供しようと製品づくりに取り組み、第一号製品となったのが獣害対策の「オリワナシステム(現・GeoWana/ジオワナ)」です。中山間地域でも繋がる長距離無線を用いたこの試みは日本初になります。

―― 獣害対策以外にはどのような機器があるのでしょう

GeoWanaの実績をベースに新たに開発・提供を始めたのがGeoChat(ジオチャット)です。簡単にいうとGPS(位置情報)を定期的に測位して発報する端末です。定期的に位置情報を送信する機能として単独でも使えますし、SOSボタンでも位置情報を送ることができます。さらに大きな特徴として、スマートフォンとBLE(通信可能距離は短いが、省電力で動作する無線通信技術。Bluetooth 4.0で追加された仕様の一つ)で連携し、専用のアプリを用いてメッセージの送受信が可能であることが挙げられます。

先にお伝えしました通り、一度に送信できるデータ量がわずかなため、30字までと文字数の制限がありますが、チャットのようにメッセージのやりとりができます。開発当初は登山者用を想定していましたが、2019年に開催された林業の展示会に出展したところ林業関係者から熱烈なラブコールをいただきまして、まずは喫緊で導入を望んでおられる林業者の労働安全に役立つ商品化に取り組みました。実績第一号として、2020年から愛媛県久万高原町で林業関係・自治体・森林組合への導入が続いているところです。

愛媛県久万高原町では「町ごとまるっとIoTネット」と銘打った取り組みをされています。面積が山手線内の約9倍の583.7㎢、その9割が山林部の林業が盛んな町で、林業従事者の安全管理を考えた対策が以前から進められていました。LPWAを扱う大手各社に声をかけて通信テストが行われたのですが、久万高原町の地形の険しさもあり思うような成果が得られず、色々と検索頂き当社にたどり着いて頂いた経緯があります。我々が取り組んだ通信テストの結果が非常に良好で導入が決定し、おかげさまで今では久万高原町全域で20箇所に中継機が設置してあります。
同町の大規模通信インフラは最初から林業だけを想定したものではなかったので、中継機を経由しGeoWanaやGeoChatだけで無く、気象計や水位センサーなども連携して使える仕様になっています。

―― 気象計まで使えるのですね。それは防災に大いに期待できそうですね

はい、上流や源流などに設置して広いエリアでのモニタリングを可能にし、私たちの使命として防災にも力を入れていこうとしている段階です。
気象計にしても水位センサーにしても、奥山の上流に設置するため、降水量から影響する河川の水量等を感知し未然に災害を防ぐ事ができます。獣害対策・林業支援・登山者の見守りなど、今まで全て人力でやっていた部分の負担を軽減しようと取り組んでおり、登山者の見守りはこの夏から始めるところです。

また、近年では、電力会社各社から水力発電用のダムに水を取り込む「取水堰」(しゅすいせき)のモニタリングや、低解像度で良いので現場の写真を送ってほしいなどの相談や要望があります。電力会社作業員の方々がクマと遭遇する可能性があるエリアや滑落の危険がある場所までリスクを冒して行く必要がなくなる、行く頻度を減らせる、あるいは行く場合でもGeoChatがあれば万が一の事態にも早急に対処できるという観点で導入を検討頂き、実証実験を予定しています。

―― モニタリングには設置カメラなどを使うのでしょうか

はい。GeoCam(ジオカム)といって、今のスマートフォンで撮影するような高解像度の写真や動画は送れませんが、昔のガラケーと呼ばれていた端末レベルの低解像度な写真を送信することができます。
水量や川の上流の様子を確認し変化を捉える、崩落現場、崩落の可能性・危険性のあるところの監視、獣害対策ですと罠(わな)が作動しているかどうかの「確認できる」ツールとしてとても多くのご要望があり、現在実装レベルの試験機第二弾を開発・検証中です。

例えばGeoCamで上流の降水量をモニタリングしつつ、閾値を超えたら水位計の監視モードの間隔を短くして監視頻度を高める、写真で様子を伝えるなどといったことも仕組みとしては可能ですので、これらを防災に活用して頂くために、どうアピールしていくか模索しているところです。


時田さん、ありがとうございました。上流の様子がわかると水害を減らすことに大きく影響しそうですね。次回もよろしくお願いします。

取材協力:株式会社フォレストシー

(防災士・東京防災コーディネーター:R)

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