コロナ禍の避難について、各メディアでも話題になりました。災害が複数同時に発生した時には、何を基準にどのように考えれば良いのでしょうか。日本全国で活躍する「防災士」の育成、被災地の視察・取材や防災に関する講演で全国を飛び回っていらっしゃる、認定特定非営利活動法人 日本防災士機構 理事の橋本茂さんにお話を伺います。
――コロナ禍の避難について、どのように考えていけば良いのでしょうか
これについては、国も有識者の方も答えはハッキリしています。まずはとにかく「命を守ることを最優先」にするということです。家にいると命の危険があるのでしたら、迷わず避難してください。ただその避難先である「指定避難所」はいわゆる「3密」の典型になりかねませんので、地震や洪水などの難からは逃れられるけれど、コロナ感染のリスクは高まります。
また避難所に向かって逃げている途中で交通事故に遭うかもしれないですし、要するにリスクはたくさんあるわけです。そのいろいろなリスクの中で一番大きなリスクを回避して、よりリスクの小さいところへ移動していく、あるいは安全な場所にとどまるというのが避難です。
自宅がコンクリート造りで震度7の地震が3回来てもびくともしないとか、川からの距離が十分にあって浸水の心配もないという人は「どこか他所へ逃げる」必要がありませんよね。家に留まっているのが一番安全ですから。でも今いる場所が危険な(なんらかのリスクが想定される)場合は、ためらうことなくより安全な場所に移動してください。まずこれが「避難」の考え方です。
次は「避難所」の問題です。避難所は大規模災害であればあるほど、一つの避難所に大勢の人が集まります。同じ避難所でも、災害の規模によってはそこに避難してくる人が200人、1000人、1500人とどんどん膨れ上がっていきます。そんな人数になってしまったら、感染症のリスクを防ぐのはかなり難しくなってきます。それ以前に避難所に来た人全員が入り切るかどうか…おそらく無理でしょう。
避難については固定観念を捨てて、総合的に判断する必要があります。
避難=避難所にいくことではない、ということをしっかり理解してください。たくさんあるリスクのうち、どのリスクが一番命の危険があり、どこにいれば一番命が安全かということです。
先ほど「家」にとどまることについてもお話しましたが、その家は果たして大丈夫でしょうか? 熊本地震の際に多くの被災者の方から直接お聞きしましたが、最初の揺れで危険を感じ、庭にテントを張ったり車に避難したりして助かった方が大勢いらっしゃいます。熊本地震では前震よりも本震で倒壊した家屋が多く、築年数が新しい家でも無残な姿になっていました。専門家の話ですと、いきなり本震が来ていたら死者数がもっと増えていただろうということです。
その家がどれくらいの地震に耐えられるかについて、素人にはわかりません。だから地震に備えるには安全な場所にいた方が良いです。頑丈で震度7程度の地震が3回襲ってきても壊れないコンクリート造りのシェルターのような建物はなかなかありません。通常の建物にいるよりも、周囲に倒壊の危険性のある建物がない広い場所で車の中にいる方が安全です。しかし、車中泊は健康悪化、エコノミークラス症候群という別のリスクがあります。
―― さまざまな情報が溢れていて、どう解釈して整理し選択するか、大変そうですね
メディアなどでも最近では「避難=避難所に行く、ではありません!家が安全なら留まってください!」という話をよく聞きますが、ただし、その家の安全性は確実ですか?ということです。この「ただし」という条件も重要なんです。
避難には優先順位があります。地震や洪水で命の危険があり、避難所に身を寄せる方が命を守れる・安全なのであれば、コロナ禍であろうと避難所に行くしかありませんが、その場合はコロナ感染のリスクを回避するために対策をしていきましょう、ということになります。
コロナに関する感染症対策についても国や専門家の情報を見ても、自主防災と同じ「答えはあるけれどやるのは大変」です。国や専門家は「まずは住民の意識を変えましょう」と言っていますので、ここでも防災士の出番です。周囲の人に「避難」「リスク回避として何が望まれる行動か」をきちんと周知すること。日頃から洪水ハザードマップを徹底して確認すること、感染症蔓延時に避難所へ行かざるを得ない場面になったときの行動について、各世帯全員がご自身で考える・計画することを一緒にやる。たくさん溢れている情報の優先順位を明確にして、住民はどう行動すべきか、その方向性を示してあげることが防災の準専門家とも呼ぶべき防災士の役割だと思います。
「自分の命は自分で守る」という自助の考え方が全ての基本ですね。そして避難の優先順位をしっかり認識し、日頃から意識しておくことも重要だなと感じます。トイレットペーパー買い占めなどがあったように、ちょっとした情報でパニックになる人、冷静な行動を忘れてしまう心理は誰にでもあります。リスクを理解し、役割分担と行動タイムラインを作成し、それが実際にできるよう訓練する。なんでも同じ、ですね。そしてやり方がわからなければ身近な防災士に声をかけてみてはいかがでしょうか。
橋本さん、ありがとうございました。
取材協力:認定特定非営利活動法人 日本防災士機構
(アール)