一番身近な防災リーダー「防災士」ってどんな人のこと?

COVID-19(新型コロナウイルス)の蔓延で緊急事態宣言が発令され、それまでとは生活が激変するという未曾有の事態に至りました。自粛生活の真っ最中に発生した豪雨・震度4以上の地震で「コロナ禍の避難」について考えなくてはならない場面もありました。
災害の発生は時を選びません。時間も季節も、その時どんな状態であるかなんてお構いなしに発生するのが自然現象でもあるのです。だからこそ「日頃の備え」が必要になりますが、それも自分一人でできることと、そうでないことがあります。ご自身と家族でできることは何度かお伝えしてきましたが、今回は日頃からの備え、いざというとき頼りになる存在=身近な防災リーダー「防災士」についてご紹介したいと思います。お話を伺ったのは、認定特定非営利活動法人 日本防災士機構 理事の橋本茂さんです。

――「防災士」が生まれた背景について教えてください

この仕組みは1995年1月に発生した阪神・淡路大震災を教訓に生まれました。それ以前の日本の防災体制・法制・行政の対応は、1959年の伊勢湾台風を機に作られた災害対策基本法に基づいて動いています。これにも住民の責務についても記載はありますが、あまり認識されているとは言えない状態でした。災害が起こったら行政機関=被災地・被災者にとって近しい自治体が救助・救援にあたりましょう、つまり「災害が起きてから何かやる」というのが主流だったのです。

ところが阪神・淡路大震災が発生したことを機に、これが大きく変わることになりました。災害の規模が大きければ大きいほど行政機関がダウンし、初動(初期消火・救援)その他の活動に相当な時間を要することが明らかになったからです。一方、阪神・淡路大震災では、生き埋めになった約35,000人のうち4分の3以上を救い出したのは近隣の住民だったという事実も注目すべき点でした。

これらを踏まえると次の大規模災害でも同様のことが起こると予想できますので、自治体内の連携・広域連携をはじめ、行政は行政の機能を強化しつつ、全国民をあげての自助・共助が大事、という認識が広がりました。

自助とは「自分の命は自分で守る」、これは防災の基本です。共助とは「地域や職場で助け合い、被害の拡大を防ぐ」こと。災害発災直後の初期消火・避難誘導・避難所の開設などを地域の住民自身で行うために、地域や職場の人たちと協力して災害に対する備えや防災訓練を進めます。この自助・共助の中核的な役割を果たす人として防災士にリーダーシップを発揮してほしいと思っています。

以前は自主防災組織の役員や○○県防災指導員、△△市防災指導員など、自治体ごとでバラバラに防災リーダーの養成・委嘱をしていましたが、そうして養成・委嘱された「防災コーディネーター」には自治体によって相当な温度差がありました。例えばある自治体では防災コーディネーターになるために1週間程度の研修を受け多くの知識があるけれど、他の自治体では3時間の研修のみで限られた範囲でしか防災の知識・技能を持っていません、といった具合です。これでは有事の際に活動する防災リーダーとして説得力がありませんし、広域災害が発生した際に実務的にも役に立ちにくいです。そこで全国標準を作り一定の基盤の上に立った防災リーダーを育て、全市町村に配置しようとしたのも、この仕組みが生まれた背景になります。現在では全国各地に19万人の防災士がいます(2020年5月現在)。

―― 防災士は具体的にはどのような役割を担うことが理想でしょうか

「自主防災組織の中で活躍してください」ということです。なぜなら全国で見ると80%以上の地域に自主防災組織があり、仕組みとして長い歴史があり、公的な支援(助成金)も出ています。だからこの仕組みを上手に生かして活発に、機能的に動かしていくことで地域防災力の向上に直結していくことが期待できるからです。

もう一つはご自分の立っておられる場所で頑張っていただきたい、ということ。会社員の方は勤め先の防災対策で、学校の先生だったら学校の防災を、特別養護老人ホームなど施設の方は入居していらっしゃる方の身の安全を守るために、それぞれ皆さんに頑張っていただきたい、ということです。まずはご自身の立脚点で頑張っていただき、余力があれば地域でも活動の両方していただきたいというのが我々の願いです。

―― 町内会の行事に参加することが防災にも役立つと言われますが、ご近所付き合いが希薄になっている昨今、地域防災をより強化するために必要なことはどんなことでしょう

基本的には、先ほどもお伝えしたように「自主防災組織を動かす」ことですね。活発に動かすこと=機能させることによって結果がずいぶん違ってくると思います。
自主防災組織があまり活性化できていないところでは、防災訓練もせいぜい年に1度か2度、集まる人はいつも決まっているのが現状です。

東日本大震災でハッキリしたことは、役割分担がちゃんと決まっており、住民のほとんどが参加して定期的な訓練を繰り返し行なっていた、つまり自主防災組織がしっかり機能していた地域では生存率が圧倒的に高かったということ。毎月のように訓練をやっていた地域では、あの大変な災害でも全員がしっかり逃げ切っていたんです。

繰り返しになりますが、ご自身の地域の自主防災組織が動いてなければ動かし、動き始めたら次の3つのことをしていただきたいです。

1:リスクの確認
2:計画を立て役割分担をする
3:「2」でできた計画に沿って訓練を地域住民全員参加で行う

これをとにかく繰り返しやっていただきたいと思います。

―― 今お聞きした限りでは、そんなに難しい内容ではない気がしますが

はい、とてもシンプルなことです。ですが、実際やるとなると大変です。つまり「防災」はそういうことなんです。家庭において職場において地域において、何をしたら良いか答えはすべて出ていますが、それがなかなか進まない。誰しも自分と家族のことでせいいっぱいなんですね。
やることはシンプルで決まっているんだからやればいいのはわかっているけれど、実際にやるのは大変。その「大変なこと」を防災士が先頭に立って「やりましょう!」と声をかけていこうと呼びかけています。防災士は「演壇に立って講師として指導すること」がメインではありません。もちろん、学校などから依頼され講演や防災訓練の指導をすることもありますが、基本的に防災士の役割は指導よりも「一緒になってやりましょう」ということです。

自主防災組織の役員などから「防災訓練を呼びかけても同じ人しか集まらない」「参加率がせいぜい20〜30%」と言う声をよく聞きます。そんな中でも、地元のお祭りや運動会を開催する時に工夫を凝らして約90%の参加を実現している自主防災組織もあります。そういった成功例を見習っていただきたいとも思います。

誰かが言い続けるしかないんです。防災士が周りからうるさがられようと声をかけ続けましょう、と。私も防災士の養成講座で講義をしていますが「またあの人、防災か。口を開けば防災だな」とうるさがられる存在になりましょう。そのうちに「でもあの人が言っていることは大事だよね」と理解者も必ず出てきます、と。
いま地域で熱心に防災を語る人があなた1人しかいなかったら、まずは3人になりましょう。1人から3人になるまでが大変ですけれど、3人から7人、10人になるのは、ハードルが下がるのです。地域で防災に積極的な人が10人集まれば相当のことができます。

防災は「今日やらなかったら明日生きていけない」ことではない。今日防災に関して特に何もしなくても明日はほぼ普通にやって来る。そのため他の用事を優先し、防災に関する活動や対策はどんどん後に押しやられがちです。だから誰かが粘り強く説得して動かすしかないのです。防災士はそうした役割を果たしていこうと思っています。


身近に「訓練」「防災」と繰り返し語っている人がいたら、是非一緒に行動して欲しいですね。橋本さん、ありがとうございました。

取材協力:認定特定非営利活動法人 日本防災士機構

(アール)

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