「見える景色と安全」どちらも超重要。ヘリコプターと天気の濃い関係

地上から見る景色と圧倒的に違う「上空からの眺め」。殊にヘリコプターの遊覧飛行で観る大都市・東京の夜景、富士山、東京タワーやスカイツリーは格別です。しかし!眺めが良いか悪いかは天気次第。いやもっというと「飛べるか否か」も天気次第。これは天気とは切っても切れない関係では?…ということで浦安・沖縄と2拠点でヘリクルージングやヘリタクシーなどのサービスを提供しているエクセル航空株式会社さんを訪問しました。お話を伺うのは、パイロット歴40年の石井幸光さんです。

エクセル航空株式会社 石井幸光さん

—— お仕事の内容について教えてください。

ヘリコプターの飛行にはさまざまな目的がありますが、弊社では主に遊覧を目的とした飛行と、お客様の要望によるプライベート飛行。プライベート飛行はいわゆるチャーター便のことで外国人のお客様のご利用が多いですね。
那覇基地では離島間の移動としてヘリタクシー、人員輸送以外でいうと、辺野古基地周辺の環境調査や報道取材の受託飛行もしています。

—— 空を飛ぶ、となると天候はかなり気になるのではないかと思いますが、一番気になることはどんなことですか?

雲の高さと靄(もや)ですね。特に春先などは、上空に靄があると視界が悪くなって遠くが見えないんです。お客様にせっかく乗っていただくのですから、やはり天気が良くて遠くまで見渡せるクリアな日の方が喜びや感動が大きいと思うんです。

機内から望む夕景
(写真提供:©エクセル航空株式会社)

夜間の飛行では街明かり(夜景)を見下ろすことになりますので、多少視界が悪い状態でも満足していただけることが多いですし、特に初めてヘリコプターに乗ったという方はとても感動してくださいます。
ただですね、我々としては「最高のとき」に乗っていただければ…!と思ってしまうんですよ。これはもう、職業病かもしれませんが(笑い)

—— なるほど、毎日飛んでいらっしゃるから、そのご経験ならではのお言葉ですね!

お客様に最高の時間を過ごしていただきたいですからね!
一方、安全面で気になるのは雲ですね。冬季に「湿気の多い雲」があると、エアライン(飛行機)と違ってヘリコプターの場合は上空を飛んでいる時に機体に氷が付着するんです。そうするとエンジンが氷を吸い込んだりして、ヘリコプターの性能が落ちてしまいます。例えば振動が大きくなり乗り心地も悪くなります。気温が高ければ少々の霧雨でも問題はありませんが、地上で気温が4度だと上空は0度になりますので、注意が必要になりますね。雲が全くない状態でしたら、地上で氷点下でも関係ないんですけどね。
大きなヘリコプターの機体には防氷装置が装備されているものもありますが、結構重量がありまして、乗員人数が制限されてしまうなどのマイナス面もあるんです。

—— そうすると、天気をマメにチェックされていらっしゃるのでしょうか?

はい、そうですね。ヘリコプターのパイロットになる試験にも気象の知識は必要ですし、毎日の業務として天候チェックは欠かせません。

スカイクルーズ
(写真提供:©エクセル航空株式会社)

—— 石井さんは40年の大ベテランとお聞きしておりますが、そうすると天気の状態を読むこともベテランですよね。

ベテランが一番危ないんですよ!(笑い)
我々の仕事はお客様の命をお預かりしている仕事です。お客様ご本人だけではなく、ご家族や親戚、ご友人…お客様ご本人だけでなく周りの方々全てに対して責任がある、という認識を真摯に持つことが一番大事です。
だからパイロットの資格を取得する時、最初に教え込まれたことが「常に初心にかえること」でした。初心を忘れず、常に細心の注意と安全対策を万全に努め、決して慢心しないこと、自分の欲で飛ばないこと。特に天候に関しては「大丈夫だろう」ではなく、飛ぶことをやめる勇気が絶対に必要なんです。

—— プライベート飛行の場合、微妙な天気のときはどのように判断されるのでしょう?

お客様の目的次第で、ご要望の内容によって安全を確保できてから、例えば今日の視界は良くないとか、フライト時間が長くなるとか、予想されることをお伝えします。移動だけが目的の場合は、視界が多少悪くても飛行に問題がなければ飛べますからね。

—— 「飛行をやめる」ことを判断するのはどのような要因でしょうか?

一番大きいのは天気の流れです。好転するのか悪化するのか、風の流れで予測します。同じ地域を長年飛んでいると、こういう風の時はこういう雲ができる、ということは予測できるようにはなりますが、全くその通りとはいきません。
近年では気象庁の発表にも「想定外」という言葉がよく使われますが、想定外は常にありますから、「今日はどうかな?」と迷ったら中止した方が無難です。
もちろん、ここ(ヘリポート)にいらしてから飛行中止をお伝えするときはお客様も残念に思われるでしょうし、我々もとても辛いです。ですが、なんといっても安全を他に代えることはできませんからね。無理をして飛んでご迷惑をおかけしてしまうのはお客様ですから。


「初心にかえる」…ベテランの石井さんの口からこの言葉をお聞きすると、深みが違いますね。ヘリコプターから都内の夜景を観て2019年の締めくくり、もしくは2020年のスタートにするのもオツかも…!次回は恒例5つの質問で引き続き「天気とヘリコプター飛行の関係」についてお聞きします。

取材協力:エクセル航空株式会社

(アール)

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