令和元年に日本を襲ったのは台風15号だけではありません。数々の記録を塗り替え、気象庁からも異例の緊急会見があった「台風19号」。各地で河川の氾濫・決壊や土砂崩れなど大きな水災害を起こしました。どのような台風だったのか、がんちゃん気象予報士が解説します。
規格外のスーパー雨台風19号
あまりに広範囲にわたる被害で千葉県内の復旧作業が難航していた10月5日(土)、日米欧各セクターの数値予報は、秋の3連休における大型台風が日本を直撃することを早くも示唆していました。残念なことに予測は的中し、歴代に名を刻む最悪な台風として現実化してしまったのが、台風19号です。
10月6日(日)未明、予測通りにマリアナ諸島近海で台風19号が発生。6日18時には 992hPaでしたが、7日18時には915hPaへ。たった24時間で77hPaもの爆発的な発達を遂げ、あっという間に「猛烈な勢力」の危険な台風に転身しました。そしてさらに心配なことに、8日9時時点の予想進路図では、東海・関東地方を直撃する予想になっていました。
9日(水)、台風がまだ遠くにあるにもかかわらず、気象庁は異例ともいえる会見を開きます。台風接近の前日の会見では衝撃的なコメントが発表されました。
「状況によっては、大雨特別警報を発表する可能性があります。伊豆に加えて関東地方でも土砂災害が多発し、河川の氾濫が相次いだ、昭和33年の狩野川台風に匹敵する記録的な大雨となるおそれもあります」(気象庁発表コメント抜粋)
首都圏のJR私鉄各線は、12日昼から13日午前中まで計画運休を発表。羽田発の航空便も12日は終日ほぼ欠航となり、スーパーなども軒並み休業のお知らせを告知。台風15号の際に発生した長引く停電を想定したのか、店の陳列棚からは停電になっても困らない食材が早々に売り切れる事態となりました。
10月12日(土)、関東首都圏では朝から強い雨が降り続け、千葉県では竜巻とみられる突風により死傷者が出ました。また三重県など東海地方の一部では早くも冠水被害などが発生していました。
台風19号は19時頃に955hPaの強い勢力で伊豆半島に上陸。台風を取り巻く発達した雨雲がかかったため関東や東海で記録的な大雨となり、箱根町では総雨量が1000mmを越えて観測史上最大の雨量となりました。
気象庁は15:30、静岡・東京・神奈川・埼玉・群馬・山梨・長野各都県に大雨特別警報を発表、19:50には茨城・栃木・新潟・福島・宮城県にも大雨特別警報を追加発表しました。多摩川は世田谷区玉川付近で氾濫、千曲川・入間川など大河川でも氾濫が発生。北茨城市の水沼ダム、相模川上流の城山ダムなどでは緊急放流が行われました。石廊崎や小田原などで観測史上最高の潮位。羽田・成田空港は全便離発着見合わせで、国内線1600便以上が欠航しました。
【各都市の1時間降水量】
神奈川箱根町 85.0mm/h (19:21) [10月の1位の値を更新]
神奈川県丹沢湖 81.5mm/h (19:52) [10月の1位の値を更新]
宮城県丸森町筆甫 80.5mm/h (20:30) [10月の1位の値を更新]
【各都市の24時間降水量】
神奈川県箱根町 942.5mm (21:00) [観測史上1位の値を更新]
静岡県伊豆市湯ケ島 717.5mm (18:50) [観測史上1位の値を更新]
埼玉県秩父市浦山 647.5mm (22:00) [観測史上1位の値を更新]
東京都檜原村小沢 627.0mm (21:20) [観測史上1位の値を更新]
静岡県静岡市梅ケ島 613.5mm (20:00) [10月の1位の値を更新]
神奈川県相模湖 604.5mm (21:20) [観測史上1位の値を更新]
全国21河川24か所で決壊、のべ142河川で越水となり、死者・行方不明者合わせて40名以上の甚大な被害に拡大。台風は正午には三陸沖で温帯低気圧に変わり、関東では台風一過の晴天となったものの水位が上がり続け、台風通過後の夜になって氾濫危険水位に到達したところもあったほどです。
東京湾では港湾施設への被害も甚大となり、横浜港周辺では先日の台風15号に続いて、護岸や橋梁の損傷が相次ぎ、海づり施設や桟橋などにも大きな爪あとを残しました。
まさかの…台風21号が❝また❞千葉を襲う
これでもう、今シーズンの台風は終わりだろう…祈りにも似た気持ちで誰もがそう思っていた矢先の10月25日、台風21号が関東の南東海上、少し離れたところを通過しました。今回は前回のように直撃じゃなく、東に逸れてくれた…とホッと胸をなでおろすことはかないませんでした。寒気を伴った低気圧が東海沖をゆっくり東進するところに、台風21号をとりまく湿った空気が反時計回りに流れ込むという、予想もしたくない展開に。
台風が寒気ドームにぶつかるかたちで、雨雲が関東から東北の太平洋側で発達し、千葉県では先の台風15号や19号を遥かにしのぐ記録的な大雨となりました。河川の氾濫や浸水、土砂災害の被害が多発し、再び甚大な被害となりました。
19号のインパクトが大き過ぎて少し陰に隠れてしまった感はありますが、関東沿岸部は先日の台風19号の雨量を遥かに上回っており、こちらも実質的には特別警報レベルの大雨だったといえるでしょう。
昨年に続いて、気象予報士の視点から見ても目を疑うような大雨や暴風による甚大な災害が発生しました。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書などから、これらの「想定外」に「温暖化の影響」が関与していることはほぼ否めない状況になっていますが、異常気象の二極化は確実に増えており、遠くない将来、再度自然の猛威に晒されるリスクは避けられないと考えられます。
一連の災害ハード(堤防など)・ソフト(警報階級など)両面の整備の方向性や避難行動の在り方について議論されていますが、いざ!という時に、生命や財産をどのようにして守るか、改めて「自分事」として考える必要がありそうです。
がんちゃん気象予報士、ありがとうございました。被災に遭われた方に心からお見舞い申し上げます。「想定外」をはじめ、気象庁から発表されるコメントにも、これまでに経験したことも想像したこともない、最悪の状況が見込まれることを示唆する言葉が使われました。私たちも自分の身を守ることを強く意識しなくては!
(アール)