ハザードマップの重要性がメディアなどにも取り上げられるようになりましたが、全国津々浦々、その土地によってリスクの種類が大きく違います。ハザードマップは市区町村をメインとした自治体が作成し、地域の住民に提供されていますが、それはどうやってできていてどのように活用すればよいのでしょうか。また、今年から地図に新しい情報「自然災害伝承碑」が記載されるようになりましたが、その意味とは…国土地理院・諏訪部さんにお話を伺いました。
先人からのメッセージ:自然災害伝承碑
地図に新しい情報が加わりました。「自然災害伝承碑」の記載です。そのきっかけとなったのがこちらの写真です。
大阪府警察 小屋浦(広島県坂町)の捜索活動時の写真(提供:国土地理院/大阪府警察)
これは「平成30年7月豪雨」の際に大きな被害のあった広島県坂町の捜索現場を撮影したものです。この写真に写っている石碑を見て「なんだろう?」と調べて見ると、明治時代に災害が起こり亡くなった方がいる、ということを知らせる石碑でした。しかし残念ながら、このたびまた同じ場所で同じように土石流によって人命が失われています。
石碑は先代の人たちが「この災害を忘れてはいけない」と作ったものでした。しかし残念なことに、調査によると地域の住民の人はこの石碑の存在は知っていたけれど、その意味については知らなかったんです。中には「知っていればもう少し早く避難したかも」といった声もありました。
国土地理院でも「土地条件図」を作っており、自然災害に対して、地形によってどんな災害が起きやすいかということを知識として持っており、それを何らかの形で発信もしていますが、「土地条件図」なんて見たことがないという方が殆どです。
それで、この写真と調査を機に「自然災害伝承碑」だったら関心を持ちやすいのではないかと考えました。ある地形に対して特定の自然災害が繰り返し発生するという特徴がありますので、以前に災害が起きたことがわかれば、同じ気象条件のときには同じ災害が起こる可能性があります。日頃から対策を知っていれば、行動に移しやすいのではないか、そのために関心を持ってもらいやすい情報を地図に掲載する取り組みです。
自然災害伝承碑の地図記号(画像提供:国土地理院)
今年の5月に報道発表のあった「逃げなきゃコール」をご存知でしょうか。災害時に大切な人を守るため、避難のあと押しをするための取り組みです。
災害の可能性が発生したとき、自治体が避難勧告をしても実際に逃げる人が本当に少なくて大きな問題になっています。こうした人たちも災害のリスクや、過去に起こった実例を知っていれば、積極的に避難行動をとるのではないか。「逃げる」きっかけになるもっといい方法はないか…と模索する中で、まずは、一番避難行動をとりにくい高齢者に対して、どうすればよいか考えました。
自分もそうですが、子よりも孫のいうことの方を素直に聞けるんです。とすると、小学生・中学生ではないか。小学生に「おじいちゃんが住んでいるところには、こんな石碑があるよ。過去に大きな災害があって人が死んでいるっていうことだから、おじいちゃん!すぐに逃げて!」と一言伝えてもらえないだろうか、ということでスタートしました。
もちろん、地域の防災リーダーに知っていただくのも重要ですし、ハザードマップの作成を担当する、防災拠点の中心となる市区町村の担当者にも知っていただきたいと思い、地図に記載することで多くの人に気付いてもらえるのでは…と考えました。
地元の避難勧告を発令する市区町村と、我々国土地理院の地方測量部の連携を深める目的もあり、市区町村から申請してもらって地図に掲載しています。
このお話を伺って、自然災害伝承碑が自分の生まれ育った地元にもあることを知り、愕然としました。見ているはずだけれど、全く理解していなかった…。自分の記憶のある災害は覚えていても、孫やひ孫の時代にはどうだろう?私たちの祖先は、可愛い孫やひ孫、そしてそのまた孫のために「危ないから気をつけて」とメッセージを遺してくれているんですね。その思いを無駄にしないためにも、自然災害伝承碑、もっと関心を持ちたいと思いました。
取材協力:国土交通省 国土地理院
(アール)