【防災特集⑥】どこに逃げる?0メートル地帯・江戸川区の選択

注目を集めた江戸川区水害ハザードマップ。このハザードマップには、さまざまな必要事項がわかりやすく記載されていました。このようなハザードマップが生まれた背景には、0メートル地帯に住む人が抱える課題と、そのリスクを回避させたい区の思いがありました。今回もハザードマップを編集した江戸川区 危機管理室防災危機管理課にお話を伺います。

―― 全国でハザードマップは作られていますが、ここまで話題になったケースはこれまでになかったように思います。このハザードマップが生まれた背景として、江戸川区では日頃から防災意識が高いのでしょうか?

江戸川区だけではなく、どこもみなさん訓練したり勉強会を開いたり、色々されていると思います。江戸川区は0メートル地帯といわれる低い土地ですので、地震の時と水害の時の避難の仕方が大きく違います。

区民の方々にとってわかりやすいのは、地震発生時の避難の仕方だと思います。これは長年、リーフレットの作成や区民への啓発などを続けた成果だと考えています。また、職員に関しても地域防災計画に基づいて災害対策研修や訓練など、教育も徹底しています。

具体的には、各自名札(ネックストラップ型ネームホルダー)の中に、地震発生時に何をするか記載された「職員防災カード」を入れて常時身につけています。非常時に慌てずきちんとやるべきことができるように。

―― お一人お一人、違うことが書いてあるんですね。

はい、自分が何をすべきか、まず理解をして実際にできるよう訓練します。江戸川区の場合、地震発生時には、昼間と夜間の職員体制が違います。地震はいつ起こるかわかりません。閉庁時(夜間・休日)と開庁時(昼間)でいうと、時間的な確率では約9割が閉庁時の発災となります。このため、閉庁時に地震が発生したらどうするか?ということをしっかり理解するように訓練しています。特に新しく入庁した新人には、毎年6月頃、ある程度職場に慣れた時期を見計らって研修と一緒に防災教育もしています。

そのほかに、定期的に職員訓練をしています。それぞれの担当部署が持ち場で、様々な事象を想定し、地震発生→火災があったらどうする?などのカードを突きつけられ、考えながら行動します。例えば給水施設に行って飲料水を供給する部署は、実際その場所にいって設置をします。そのほか、5月には水防訓練を実施。土嚢積みや消防署などの関係機関と連携しています。

―― 訓練の中で見えたことなどはありますか?

反省会をして課題の洗い出しを行い、検証し次に繋げていきます。細かい話もたくさんありますが、例えば本部訓練でいうと「火事が何丁目で起きた」「消防署に連絡」で終わってしまったけれど区内に消防署が3署あり、具体的にどの消防署に連絡しろ、と指示すべきだった…など。「指令を出した後、どうなった?」というのも訓練に取り入れよう。2時間後のシミュレーションとその対応など。このような感じで少しずつスキルアップをしています。

―― 水害の訓練に関してはいかがでしょうか。

大規模水害に関しては、訓練のしようがないと思います。今後、図上とはなりますが、シミュレーションを考えていく必要があると思います。 防災教育としては「我が家の広域避難計画」を学校の防災教育に使っていこうということで、モデル校からスタートします。 学校で実施すれば、子どもが宿題として家に持ち帰り、親御さんも一緒になって家族みんなで考える機会ができます。そうやって少しずつ広域避難の考えが浸透していってくれればと思います。また、知識を持った子ども達が成長していき、防災意識を持った大人になってくれることも期待しています。

―― そこで見えた課題はなんでしょうか?

課題という意味では、ハザードマップを出した段階で区民の方々から言われていることが「広域避難をしろと言われても、どこへ?」ということです。現状では縁故避難(知人や親戚)で避難場所を確保してくださいとお願いをしている段階です。 公的な避難場所について国と都で検討会を開いたりしていますが、まだ「ここ!」という場所をお示しできていないのが行政側の課題ですね。

―― 地震と水害はどちらのリスクがより高いと思われますか?

水害の場合は数日前からある程度の予測ができるので、その段階から準備ができることが地震との大きな違いですね。水害でなければ小・中学校を避難場所として開設できますし、避難所に分散備蓄(避難所ごとに備蓄がある)ので、地震に対する備えはある程度できているといえます。

しかし大規模水害となると、その小・中学校も水没してしまうので避難所にはできない。江戸川区の場合は、このことも住民の方に周知していかなくてはならない。「何かあれば、小中学校に逃げればいいんでしょ」と思っている方も多く、説明会などでも、そこから理解をいただかなければなりません。

―― 理解していただくのは、なかなか難しいことですよね。

そうですね。地域の訓練も多くの方がいつも来ている方々で、なかなか新しい方に来ていただけないのが現状です。多くの方々に災害について、知っていただき、その時どうするかを考えていただけるよう、啓発を続けています。

―― 水害が増えている気象状況ですが、今後についてはいかがでしょう?

今現状はここ(江戸川区役所)も大規模水害が起きた場合は、2階くらいまでは水没してしまいます。現時点では決まっていませんが、水害のない地区に本部のバックアップ機能を持たせることも検討中です。

江戸川区役所の職員の60%近くが区内在住なので、震災の場合、参集そのものは割としやすいと思いますが、今後の課題は大規模水害の場合にどうするか?ということですね。国や都の関係機関や有識者の意見も交え、しっかり決めていかなくてはと思っています。


貴重なお話をありがとうございました。公的避難場所に関しては、まだ検討段階とのこと。住民の皆さまも役所を頼りにされるお気持ちはとても理解できますが、災害の多い中で「自分の命は自分で守る」を第一に行動につなげていただけたらと思います。 災害で誰も犠牲にならない世の中にしていくのは、私たちひとりひとりの行動でしかない!ですね。

取材協力:江戸川区危機管理室防災危機管理課

防災士・アール

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