【防災特集④】平成30年7月豪雨を経験した広島市の取組 その2

過去に大きな気象災害を体験した広島市。災害の教訓を生かし、対策の強化を進めていく中で見えた課題とは?
広島市では、平成30年7月豪雨の後、検証会議を重ね「避難対策等の検証とその充実に向けた提言」がとりまとめられています。前回に引き続き、防災士が広島市の危機管理室の方に伺ったお話を紹介します。

―― 提言のコンセプトは「ひとりひとりの“我がこと”が重要」+「命を守るのは“地域コミュニティの力”」=「防災力」ということですが、内容について詳しく教えてください。

はい、今回検証したのは下記4項目になります。

避難情報の発令・伝達と避難行動
避難所における被災者の支援等
被災者の生活再建支援
周辺被災自治体への支援

今回の豪雨では、広島市だけではなく他の地域においても、避難情報が発令されている中で多くの人命が失われています。他の地域でも、この検証は参考になるのではと思っています。

―― アンケート調査の中に、避難行動に関する検証がありますね。こちらをご紹介したいと思います。

まずは「避難した理由」について。アンケートの結果は下記図のようになっています。(出典:「平成30年7月豪雨災害における避難対策等の検証とその充実に向けた提言」広島市)

避難した人の、避難した理由(決め手)となったのは
「雨の降り方などで身の危険を感じた」から。これは8.20豪雨被災地も7月豪雨被災地もほぼ同じくらいですが、8.20豪雨被災地と比較して差があった「決め手」があります。

▼以下、提言書より抜粋
8.20豪雨被災地では、防災意識が高く、防災情報を参考としつつ、自ら避難の必要性を判断している様子がうかがえる。一方、7月豪雨被災地では「家族に勧められたから」「近所の人や消防団員などに避難を勧められたから」といった周囲の方からの避難を勧められた割合が、8.20豪雨被災地と比較し高くなっている。

また「避難しなかった理由」について、8.20豪雨被災地と7月豪雨被災地をみるとその結果にも大きな違いがあります。

▼以下、提言書より抜粋
8.20豪雨被災地では、「雨の降り方や川の水位から安全と判断したから」「テレビやインターネットの雨量や水位などの情報から安全と判断したから」といった、入手した情報をもとに避難の必要性を自ら判断している割合が、7月豪雨被災地に比較し高くなっており、防災意識の高さがうかがえる。
一方、7月豪雨被災地では「被害にあうと思わなかったから」「今まで自分の居住地域が災害にあったことがなかったから」といった理由が、8.20豪雨被災地と比較し高くなっている。

避難しなかった理由をジャンル別に分類すると

・自己判断
・正常性バイアス
・同調性バイアス
・避難所の課題
・その他

この5つに分けられますが、例えば「自己判断」に関しては、防災意識が高く、客観的な情報で自ら避難の要否を判断している場合はむしろ望ましい状態であると言えるけれど、客観的な情報がなく判断している場合は問題です。

このような問題がある場合や、自分は被害に遭わないだろうといった「正常性バイアス」や、近所の人が避難していないからといった「同調性バイアス」に対しては、防災意識の向上を図ることなど、今後の課題改善が必要ですね。「避難所の課題」に関しては、その解決が避難行動につながる可能性が大きいと考えられます。

――ほかにも、さまざまな検証をされたのですね。全部紹介するのはこの場では難しいですが、今後の主な防災・減災対策への取組について教えてください。

防災情報等の周知徹底及び防災意識の向上のための取組、災害の危険性を自らのこととして認識できるような取組、避難場所に関する懸念を解消するための取組などがあります。

避難に必要な情報の周知徹底として「わがまち防災マップ」の作成支援を推進したり、地域の防災リーダーの養成や実効性のある避難訓練を実施したり、災害の危険性を自らのこととして認識できるような取組として、防災ライブカメラの設置を支援するなどです。避難訓練では、例えば、小学生を対象に避難所の宿泊体験学習なども行っています。

市民のみなさまには

・自分の住んでいるところは大丈夫であろうと予断をもたないこと
・自宅周辺の危険性を知り、いざという時の避難行動を意識していただくこと
・避難支援が必要な方自身も「助けられ上手」となるよう日頃から近隣の・住民とのコミュニケーションをとっていただくこと
・警戒レベル3で避難開始! 警戒レベル4で避難完了!

をお願いしています。今年2019年5月から防災情報の伝え方が5段階の「警戒レベル」になりました。避難情報に応じた「とるべき行動」をしっかり身につけていただくことをお願いします。


危機管理室・児玉さん、藤谷さん、お忙しい中ありがとうございました。

今年の6月7日、広島市では約20万人に対して警戒レベル4が発令されましたが、実際に避難所に避難した人数は228名だった、ということもニュースで報道されていました。この数を見てみるとまだまだ、避難を決意する人は少ないのだなと愕然とします。

もし、あなたの大切な家族が「警戒レベル4」の状況になったら? おそらく必死で「避難してほしい」と訴え、無事を願うでしょう。「今まで大丈夫だった」というのは、逃げない理由としては、最も根拠がなく、そして今の気象状況を見ると最も頼りないものです。
正しい情報を得て、避難は早めに。「自分の命は自分で守る」を。まずは実行していただけますよう、お願いします。

取材協力:広島市危機管理室 危機管理課
掲載資料出典:「平成30年7月豪雨災害における避難対策等の検証とその充実に向けた提言」広島市

防災士・アール

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