【防災特集②】平成30年7月豪雨 災害時の「情報」について考える

「平成30年7月豪雨」の際に、報道機関などで「今までに経験したことがないような、異常な大雨」といった表現が多く使われていました。よく、人は経験値から判断をするといわれます。過去にあった体験からしか判断ができないということは「今までに経験したことがない」ことに直面すると、判断がしづらくなるとも考えられます。

広島市で被害の大きかった地域に住む70代の女性は「大雨特別警報」が発令されても避難しませんでした。その理由は「今まで自分が生きてきた何十年も大丈夫だったので、今回も大丈夫に違いない」。また「大雨特別警報」の意味については「よくわからなかった。似たような警報はしょっちゅう出ている気がするので対して気にしなかった」。近所で人命に関わる大きな被害が出て初めて「こんなこともあるんだ」と実感し、後から恐怖がわきあがったそうです。

あの異常な状況で、私たちはどんな情報を頼りに行動をすればよいのでしょうか。また、その情報をどう理解していればよいのでしょうか。今回は災害時における「情報」について、
『平成30年7月豪雨時の災害情報に関するアンケート』を発表された静岡大学 防災総合センター・牛山素行教授にお話を伺いました。(画像はすべて、アンケート調査の結果から抜粋させていただいております)

※牛山教授が発表されている、すべての調査結果についてはこちら>>『平成30年7月豪雨時の災害情報に関するアンケート』
をご覧ください。今回はこの調査結果の中からいくつかの項目についてご紹介させていただきます。


■この調査を行われた目的などについて、教えてください。

当研究室では以前から、防災気象情報に対する人々の認識や、顕著な風水害時の防災気象情報の受け止められ方などについて調査を重ねてきました。今回の平成30年7月豪雨も顕著な風水害事例の一つと考えられますので、基礎的な情報収集として実施したものです。
(注:なお、この調査は、大雨特別警報発表市町村の一部在住者が対象のものです。自宅外への避難の実施状況も質問していますが、対応行動の一つとして参考のため聞いているもので、各回答者の所在地が明確には分からないことなどから、ここから「避難率が低い」といった議論はできません。)

牛山教授の調査結果と、結果に対するコメントは以下の通りです。(※資料画像はすべて牛山教授の調査結果資料から引用させていただいております。)

■大雨特別警報の意味に対する認識

主な内容から、いくつかの報道でも紹介された「大雨特別警報の意味が適切に認識されていない可能性」という話のもとはこのグラフです。「大雨特別警報」という言葉はほとんどにの人が知っていると思われるけれど、この情報が本来持っている深刻な意味を理解していると思われる人は5割くらい、という結果になりました。

■避難の情報に対する認識

避難準備、避難勧告、避難指示といった避難の情報の存在については概ね7~9割の人が認知しており、こうした情報が発表されることがあるということ自体は多くの人が認識しているようです。

・避難勧告などの危険度に対する認識

避難の情報が示す危険度の高さの違いについては、避難準備→避難勧告→避難指示、の順で高くなるというのがいわば「正解」ですが、この順序を選択した人は4割弱と、半数に達しませんでした。また、これ以外の回答はいくつかの選択肢に分散していることも注目されます。よくいわれるような「避難勧告と避難指示のどちらが危険性が高いのかがわかりにくい」といった問題があるだけではなく、「避難勧告」などの「言葉」で危険性の段階を伝えることに限界があることが示唆されているようにも思えます。

・大雨特別警報を覚知したメディア・(2013年との比較)

ネットをよく利用する人が関心を持つかもしれないという結果になりました。「大雨特別警報が発表されたことを一番最初に知ったメディア」はテレビ4割弱、ネット系プッシュ型メディアが4~5割。2013年の類似調査に比べテレビが減り、ネット系プッシュ型が増えた模様です。

■調査結果から、今後の課題についてどのようなことがいえるでしょうか?

堤防整備のような「ハード防災対策」は、施設整備を進めればそれだけで効果が発揮されます。一方、災害情報のような「ソフト防災対策」は、情報整備、精度向上、伝達システム整備などを図ってもそれだけでは何ら効果につながらず、情報を利用する我々自身が、情報の存在を認識・理解・活用して初めて効果につながります。

現代は、ほんの10年くらい前と比べても、災害情報は質・量ともに飛躍的に充実し、伝達システムも使いやすくなりました。平成30年7月豪雨では、様々な情報もかなり早めに的確に出されていた印象があります。「情報不足」「情報が伝わらない」という段階は次第に脱しつつあるように思います。既にある様々な情報を、我々自身が活用することが重要になってきていると思います。


牛山教授、ありがとうございました。情報の活用をするか否かは、私たち次第。ライフレンジャーは今後も皆様に活用いただける情報の発信をしたいと思います。

取材協力:静岡大学 防災総合センター 牛山素行教授

http://www.disaster-i.net/

http://www.cnh.shizuoka.ac.jp/

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