【3.11特集】東日本大震災発生から7年目を迎えるにあたって② リスクコミュニケーション

福島県立医学大学で「リスク」に関する研究をされている村上准教授インタビュー第2弾をお送りします。今回は村上准教授をはじめ多くの方が携わっている「リスクコミュニケーション」活動について伺います。

■リスクコミュニケーションとは

「リスクコミュニケーション」を一言でいうのは難しいですが、「民主主義であること」「人と話して支えるサポート」「リスクなどに関する情報のやりとりを経て、人々の意思決定の手助けをすること」「(それでいて)健康増進や幸福の向上につながること」などになるかと思います。

僕が大学の仲間たちと一緒に、文部科学省リスクコミュニケーションのモデル形成事業(機関型)の枠組みで行っている「リスクコミュニケーション」事業には大きく3つの柱があります。

*県内広域型支援事業・・・災害関連健康リスクなどに関する出前講座
*県内モデル地域型支援事業・・・多様な災害関連健康リスクに関する出前講座や自治会・教職員との災害リスクの共考活動
*県外型支援事業・・・一時避難に伴う健康リスクに関する情報のコミュニケーションスキルの育成
(参考:http://www.fmu.ac.jp/home/risk/cow/index.html

出前講座は、震災の直後から保健師からのニーズに沿った形で行われてきた講座です。震災直後の問題と時間が経過してからの問題はいろいろと多岐に渡っています。出前講座では、住民との共考に向けて、保健師にとって有用なスキルや考え方を整理するきっかけを提供しています。
県外型支援事業では、例えば避難所をどのように運営していくかとか、避難所で起こり得る問題に対し、医療関係者としてどのように対応していくか、震災前の準備という意味で模擬的な演習を行います。

■人と話して支えるサポート

この活動にはとても多くの人々が関わっていて、僕はその総括という役割です。「リスクコミュニケーション」は人と話して支えるサポート。それは「情報を伝える」ということだけではありません。例えば相談があったときに、どのような対応をするかについてのディスカッションをします。相談内容は、食品摂取による被ばくが気になるとか、野菜は大丈夫なのか?とか、外に出るのが億劫だとか、いろいろあり得るわけです。その相談内容の言葉そのものや表面上の部分だけではなく、もっと本質的な点を理解しなくてはならないケースが殆どです。相談者が鬱々(うつうつ)としているかもしれないとか、生活のリズムが変わってしまったとか、健康診断を受けていないかもしれないとか、人生のやりがいを失ったかもしれない、などです。リスクに関する情報を知りたいのではなくて、「話や不安を信用できる人に聞いてほしい」のかもしれない。こうした場合に、どのように「受け答え」をしていくか?保健活動は、名前が違うだけで「リスクコミュニケーション」とそんなに大きく違わないですね。人と話して支えて、その人の意思決定や判断をサポートし、なおかつその人がなるべく健康に近づくように支援していく活動になります。

■福島での活動において思うこと

福島の現場の保健師さんは、リスクコミュニケーションの模擬演習をするととても上手いように思います。相談内容は、放射線の話というよりは、もっと広い生活全般の話になります。相談されている方は、決してそれに対する「答え」を求めているとは限らないんです。相談された方の背景や価値観などは、個々に違います。現場の保健師は、住民が持つ質問内容や不安を整理し、個人個人やその生活と向き合って、どのように生きるか、ということについて本当に長けているなと思います。

(取材協力:福島県立医科大学 村上道夫准教授)

震災直後は避難所での生活など、目に見える部分のことが話題になっていました。震災のその瞬間からずっと今でも続いているのは、生活そのものの不便だけではなく、恐怖や不安など心の問題も大きいのだと改めて認識させられました。第3弾では「防災と未来」をテーマに書かせていただきます。

(アール)

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