天気の知識を別の分野で活かしたい…忙しい航空業界の第一線で活躍する航空気象のエキスパート・運航管理担当者の松崎さん。天気と大きく関わるお仕事ですが、災害時や緊急時に飛行するドクターヘリなど、時間がない中でどのように対処しているのでしょう?気になる天気に関する5つの質問に答えていただきました!
朝日航洋株式会社 松崎奈海さん
① お仕事の中で天気はどの程度重要ですか? 10段階評価でお願いします。
10ですね。悪天候のフライトですと搭乗されているお客様や機長、整備士の命や身体に関わりますので、非常に重要なポイントになります。
また、機体の稼働率にも大きく関わってきます。お客様の都合と天気がどうしても噛み合わない場合もありますので、営業担当を通じてご要望のあった日の天候を事前にお伝えしたり別日のご提案をしたりすることもあります。
② 天気について、何を・一番・どのタイミングで、知りたいですか?
ピンポイントで、というよりもルーティンになってしまうんですけれど、まず出社すると朝、その日1日の天気を見ます。これから天気が全国的にどのように変化していくのか。次に自分が担当しているヘリコプターの行先をピンポイントで見るようにしています。
また、退勤前に翌日の天候を心に留めて帰ると、翌朝天候を見たときに「あ、ちょっと予想と違うな」など、経験を積むこともできますので、退勤前にも必ず見るようにしています。
特に台風や、昨年発生した水害時のようなずっと雨が続く場合は、5日以上前から注視し、どの機体が動く可能性があるか、なども気にしながらずっと状況を見ています。
弊社の運航管理職は1人1機という認識ではなく、その日のフライト担当として多い日だと10機以上同時に見ていることもあります。
③ 天気はいつどんなときにチェックしますか?
常に、ですね。勤務している間は基本的にデスクトップに現在の気象とこれからの気象モデルを表示しています。航空気象でいうと
1:視程…どれくらいの距離の見通しがついているか。
2:雲の高さ…どの程度雲の高さがあるか。
3:風向風速
この3点を特に気にしています。これを毎日細かいルーティンで確認します。
④ 天気によって苦労していること・工夫していることは?
これは弊社の魅力でもありますが、種々多様な作業を受けもっています。飛ぶ場所も高度も異なりますので。特に風速は山上と地上と都内の空撮とでは全く違うので、ひとつひとつの作業にあった天候を見て、一人ひとりに合った機長へのブリーフィング(天候情報を伝えること)をしなくてはなりませんので、この点は苦労といいますか頑張りどころです。
弊社には100名近くのパイロットがいて、例えばAさんはこのモデル(気象モデル)が好きだけどBさんはまた違う…個々のコミュニケーションになるので、そこが慣れないうちは苦労したりする点かもしれません。個人個人の好みや傾向を事前にわかっていれば、フライトルートを聞いたときに、今日はその辺りは通らないほうがいいなどの情報を提供できるので、できる限りその人の作業ごと、飛ぶ特徴、性格などを理解するようにしています。初めの1年間はこれで苦労しますが、先輩からアドバイスを貰ったりして、2~3年目でやっと一人で実践できるようになります。
機長と整備士は常に顔を合わせているので名前を覚えてもらいやすいのですが、運航管理という職種だと、天気に関することでしかコミュニケーションの機会がないので、なかなか名前を覚えてもらえないんです。なので、どれだけ自分を覚えてもらえるか、頼りにしてもらえるかというところを目指しなさいと、後輩に教育しています。
写真提供:朝日航洋株式会社
⑤ 今までで一番「天気に悩まされた」ことは?
自分の記憶に残っているのは入社した年の12月のことです。東北地方の運航で雪雲が常に流れてきている環境でしたが、たまたま晴れ間が見えてエコーで雨雲の流れを見てもその後悪化する様子がなかったので、機長にその旨を伝えてゴーサインを出したんです。機長も信じて飛び立ってくれたのですが、5分も経たずに悪天候になってしまって空港に引き返しました。空港としては急に引き返してきたのでお叱りを受け、機長からも「お前の天気は当たらない」と叱られた時がありまして…雪だと視界が悪くなる、雲の高さも低くなる、といった、先ほどお話した航空気象に大きく影響してきてしまうので、冬の気象はとても難しいです。
個々のコミュニケーションも大事とは!天気だけではなく、個人の傾向や好みも把握して安全を伝えるとは、前回の「安全を担う重要ポジションで活躍する女性運航管理担当者」に続いて、貴重なお話をいただきました。松崎さん、ありがとうございました。
取材協力:朝日航洋株式会社
(アール)