天気と仕事の関係をお聞きする「天・気になるシゴト」シリーズ、令和2年の初めにお届けするのは、朝日航洋株式会社の松崎さん。これまで男性にお話を伺うことが多かったこの企画でも「初めて」の女性インタビューになります。航空の業界もさまざまな職種や業種がありますが、天気と大きく関わりのある「運航管理」についてお話をお聞きしました。
朝日航洋株式会社 松崎奈海さん
―― 具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
私は運航管理という職種に就いており、主に運航支援をしています。機体には機長、整備士が搭乗し、整備や操縦といった実際に「空を飛ぶ」部分に関わりますが、私たち運航管理職は「計画段階から飛行終了後までのすべて」に関わる職種といえます。例えば天気に関することや、飛行計画の作成やウェイト・アンド・バランスの確認などで機長をアシストします。
―― ウェイト・アンド・バランスとはどんなことでしょう?
ヘリコプターは(飛行機と違って)自由自在に動ける分、機体全体のバランスがとても重要になります。装備品を含め、搭乗者の人数や体重(の総計)などが燃料のバランスと密接な関係にあり、飛行の性能が大きく変わってしまうんです。事前にお客様の人数や、どのくらいの体重か、どこを飛行する予定なのかを伺ってから機長は搭載燃料等を決定します。それをもとに機長はフライトプラン(飛行計画)を作成し、運航管理がチェックします。
―― とても重要な役割ですね。安全面で一番注力するのはどのような部分ですか?
天気が一番重要なポイントですので、機長と事前にフライトプランを立てる上で「何分間のフライトなのか」「どの場所を飛ぶのか」「どんなルートを通って目的地まで行くのか」を確認し、天候を見ます。また、機体の都合やお客様の都合で運航が遅延しても問題がないように、飛ぶ時間のみならず丸1日の天候や、例えばフライト時間より2〜3時間後など、さまざまなスパンで天気を見るようにしています。
―― そうすると、天気にはかなり詳しくなりますね?
運航管理職は航空や気象について大学等で学んできた方もいらっしゃいますが、基本的には何も航空の知識を持たないまま入社している方も多く、先輩から代々受け継がれている教育資料をもとに1年かけて天候について勉強します。
―― その1年間、というのは四季を通じてということでしょうか?
基本的に半年間で運航管理職として働けるような知識を得ますが、1年を通して春夏秋冬、それぞれの季節にはこんな天候に注意しましょう、ということを先輩や機長から教わりながら実体験を積んでいきます。
写真提供:朝日航洋株式会社
―― 季節などではなくシチュエーションによって、例えば災害時や物資輸送などの際は、通常と注意するポイントが違うのでしょうか?
災害現場に向かうヘリコプターの安全確認が第一に重要になりますが、近くの空港や場外離着陸場(着陸の許可をとっている場所)が災害等で被災してしまっているか、通常の状態であるかどうかの確認をします。なおかつ、例えば火山(噴火)の場合は、火山灰がどちらの方向に風で流れているかを確認し、ヘリコプターはその逆側(火山灰が風で流れていない方)から回ってフライトするようにします。災害時には他社の機体等も集まって来ますので、各社の運航状況を調べ、自社のヘリコプターが安全に運航できるように情報共有をしています。
―― いわゆる「天気」とはかなり違うと思いますが?
入社して一番驚いたことでもあるのですが、私たち運航管理担当者が見ている気象のスケールは、通常のお天気コーナーで見るような「今日は晴れです、雨です」といった知識が役に立たないことでした。私自身、大学で学んでいた地球規模のスケールが全く役に立たず、一から学び直した感じです。ヘリコプターが飛ぶ「高度帯」と航空気象と呼ばれるフライトに特化した気象を専門に学ぶことになり、覚えることが多くて苦労しました。
―― 松崎さんはなぜ、運航管理職に就かれたのでしょう?
私は大学時代に地震や火山や天気など、地球関係のことを学ぶ学部にいましたので、そこでまず自然現象に興味を持ちました。就職するときに気象会社と運航会社のどちらに進むか悩み、自分の学んだ気象が別の分野で活かされることに興味を持ちまして、航空会社メインで就職活動をしていました。
朝日航洋を選んだのは、ドクターヘリや災害時に第一線で活躍する機体を多く所有しているからです。災害が発生しているときは気象状態が異常の場合が多いですし、そうした気象状況の中、第一線で活躍できるとことに魅力を感じて入社を希望しました。
素晴らしい志(こころざし)を語ってくださる松崎さんは、その表情も笑顔もキラキラと輝いていました。これまでの取材もそうでしたが、航空業界も圧倒的に男性が多いようです。今年は女性にもたくさんお話を伺いたいなと思いました。次回は本企画恒例「5つの質問」について答えていただきましたので、お楽しみに!
取材協力:朝日航洋株式会社
(アール)