マスクメロンが日本から消えるかも!? 千葉産の高級温室メロンを育てる匠の憂鬱とは

果物の王様は?と聞くと「マスクメロン」を筆頭に挙げる人も多いと思います。ネットの張った果皮の中に、美しくさわやかな甘い果汁をたっぷりと含んだみずみずしい果肉。メロンの種類は数あるけれど、中でも高級メロンの代名詞といえるマスクメロンの栽培を40年以上手がける戸田メロン園・戸田稔さんに「美味しいメロン」についてお話を伺いました。

戸田メロン園・戸田稔さん

―― マスクメロンは温室育ちなんですね。

そうですよ、ただね、普通はガラス温室といえば長さが左右対称で同じだけれど、メロンの場合は太陽光線がよく当たるよう、前(南側)が長くて後(北)が短くなっています。こうすることでメロンは効率的に育つけれど、実は他の作物だと効率が悪いんです。

―― 日本全国のメロン農家で同じように、こういった温室が使われているのですか?

いやいや、メロンといっても色々種類があるでしょう。全国で同じようにメロンは育つけれど、いわゆるこの種のマスクメロンの栽培は千葉と静岡しかやっていないんですよ。

―― 千葉と静岡だけ、というのは何か理由があるのでしょうか?

日照時間が長くて天気のよいところ、という条件がピッタリはまるのが静岡と千葉、ということになるんじゃないかな。ちなみにマスクメロンの発祥の地は静岡で、千葉のマスクメロンは静岡で学んで始めた人が多く、私もそのうちのひとりです。

―― 収穫時期はいつくらいなのでしょう?

1年中やってますよ!うちには7つのガラス温室がありますが、これをぐるぐる回して常に収穫が安定するようにしているんです。

―― 1年中ですか?

はい、温室内でボイラーをボンボン燃やして部屋の温度を保ちます。ボイラーは簡単なコンピュータ制御で温度要求をしています。24時間を4段階に分けて温度設定をすると、ボイラーが設定温度になると止まり、下まわると点火して温度があがります。

もちろん、季節に合わせて冬には冬場に育てる品種を育てますが、近頃は燃料費が上がっているから結構、厳しいですねえ。他にも冬には炭酸ガスを作るために灯油を燃やしていますから。

―― 炭酸ガスは何のために使うのでしょう?

空気中に炭酸ガス(二酸化炭素)が含まれているでしょう? 太陽が出て30分と経たないうちに食物の葉っぱから炭酸ガスの吸収が始まって、あっという間にその濃度が下がるんです。植物は光合成で炭酸ガスを吸って養分を蓄えていますので、空気中に足りなくなった炭酸ガスを補う必要があるんですよ。

作物も日照時間が短くなって冬至までは冬眠の時期に入りますが、温度を上げ、炭酸ガスを補給して目を覚まさせるので、環境を良くしてやらないと。冬至を過ぎて1月も半ば頃になってくると太陽の力が強くなって作物が変わるのがわかりますよ。

炭酸ガスの補給は9月から2月末くらいまでですね。3月には徐々に燃やす量を減らして調整していきます。今頃の時期(取材時・5月半ば頃)は太陽光線が強くなって、作物にとってはよい環境だから何もしなくて大丈夫。

―― 太陽が大きく影響するんですね。

太陽光は一番大事ですね、あとは温度。これはマスクメロンに限らず、どんな作物も一緒だと思いますよ。太陽の力の強弱でメロンの味も全然違うんです。だから秋から冬に向かうときはものすごく神経を使ってやらないと無理です。育つには育つけれど、ネットの張り方や大きさでも値段が違いますからね。少しでもいいメロンを育てたいじゃないですか。

―― メロンは中身が見えないですが、どのように良し悪しを判断するのでしょう?

そこはもう、長年の経験ですね。天気を先読みして、週間予報はこの先3日連続で太陽が出てこないと予報されているな、そうしたらその前にやるべきことをやって、水やりの量を調整して・・・太陽に関してだけではなくて、それはもうさまざま、とにかく一年中色々やることがあるんですよ。

だからね、今の人はこうした経験からはじき出されたデータを確実にもらえるけれど、そのデータをどう使うかはその人によって違いますからね。だから面白いんじゃない? それはメロン農家でも他の仕事でもみんなそうだと思うけれど。データを使いこなせる人とそうじゃない人がいて、ダメな人はダメ。

昭和40年代にはマスクメロンの一大ブームがあり、マスクメロンの栽培をする人がドンと増えて一時期は4000軒ものマスクメロン農家がありました。ところが今じゃ280軒程度になっていて、高齢化が進んでいます。

―― そうなんですね・・・そんなに減ったんですか。

マスクメロンのブームが去って、結婚式の披露宴や葬儀などでマスクメロンを振舞う機会も最近じゃ殆ど見かけませんからね。農家が減って需要が減った・・・需要と供給のバランスとして悪くはないけれど、新規参入者がゼロなのでこの先はどうなるか。
日本からマスクメロンがなくなる、ということはないと思いますが、今、このメロンを執念で育てているのが静岡と千葉だけですからね。他の地域とは育て方が全然違うんですよ。


マスクメロンが日本から無くなったら・・・それは一大事です!大きな不安と心配を抱きつつ、次回は高級マスクメロンがどのように育てられているか、徹底レポートします。

協力:戸田メロン園

(アール)

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